不動産(賃貸)取引の基礎の基礎法
     ーーー「賃借人保護」,「居住権」神話の崩壊の始まりーーー
 
序論
 
 戦後、新憲法施行後に施行された改正民法、建物保護法、旧借地法、旧借家法により保護され続けてきた土地、建物賃借人の保護は、法律に定めのない「居住権」というような言葉をも生み、これらの法律は、戦後、一貫して、賃借人を強く保護してきた。戦後生まれの法律実務家らも、賃借人を強く保護することは当然とさえ理解もしてきた。
 
 しかしながら、人口減少、郊外における空き家の増加など、社会情勢の変化にともない、前記の諸法律の内容も変化をみせ始めてきており、新借地借家法に設けられた定期借地、定期借家契約条項や良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法の施行により、従来の賃借人保護の法体系に大きな変化が生じてきている。このような現象は日本に限られるものではなく,他国、たとえばフランスにおいても,同様の現象,法律の改正,新設という現象が起きてきていると言われている。
 「賃借人保護」,「居住権」神話の崩壊の始まりといってよいものである。
 
 本書は、民法、建物保護法、旧借地法、旧借家法、新借地借家法、改正新借地借家法、そして良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法による賃借人保護体系の崩壊と現状を一瞥するものであり、賃貸借契約の解除、更新手続きの規制等という観点ら「賃借人保護」,「居住権」神話の崩壊の現状の理解の一助を目的とするものである。
 
 従来の「正当事由の存否」という裁判上の規範的評価事実の認定課題が、今後は、「賃貸借契約締結の予約合意の有無」という単純な事実認定課題に変っていきそうな予感がある。
 
                           弁護士五右衛門