「日本国内における国外サーバーからのファイルダウンロード行為」の処罰について
 
                 大阪弁護士会所属
                     弁護士 五 右 衛 門
2014/11/5加筆 2014/11/4
第一
1 大阪・奥村徹弁護士に,下記東京高裁の判決の存在を教えて貰った。
 
2 東京高裁判決は,
 「顧客によるダウンロード行為も,頒布の一部を構成する」という論理で,
 (顧客が)日本国内において国外設置のサーバーから日本国内にファイルをダウンロードした行為をして,
 (被告人が)日本国内において日本国内にファイルをダウンロードさせたものと解釈し, それは「頒布行為の一部を構成するもの」であり,
 頒布行為の一部が日本国内で行われたとの理由で
 日本国刑法の適用を認めるようである。
 
3 しかしながら,刑法の「行為論」からすれば,「(顧客が)国外設置のサーバーから日本国内にファイルをダウンロードした行為」をして,被告人の「行為」と評価することは到底,困難である。
 
  従って,上記東京高裁判決の論理
@ 「顧客によるダウンロード行為も,頒布の一部を構成する」
A (顧客が)日本国内において国外設置のサーバーから日本国内にファイルをダウンロードした行為は
B (被告人が)日本国内において日本国内にファイルをダウンロードさせたもの
という論理に基づき,日本国刑法の適用を肯定することは
不当である。
 
4 ただ,国内犯処罰を定める刑法1条所定の犯罪地とは,
@ 犯罪の行為が行われた場所,
A 犯罪の中間影響が発生した場所,
B 犯罪の終局影響である結果が発生した場所などを含むものであり(注釈刑法(1)20頁以下参照),
 その結果とは,本件の頒布行為のように,「当該頒布行為の終局的影響」と評価すべき「対向する受領行為の存在が必要とされる場合における対向行為」をも含むものと解釈されるべきであり,
 この論理から,
 「国外設置のサーバーから日本国内にファイルをダウンロードさせた者」にも
 日本国刑法の適用が肯定されるべきものと解するべきである。
 
5 東京高裁平成25年2月22日判決
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 刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を取得させることをいうところ,被告人らは,サーバコンピュータからダウンロードするという顧客らの行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを顧客らのパソコン等の記録媒体上に取得させたものであり,顧客によるダウンロードは,被告人らサイト運営側に当初から計画されてインターネット上に組み込まれた,被告人らがわいせつな電磁的記録の送信を行うための手段にほかならない。
 被告人らは,この顧客によるダウンロードという行為を通じて顧客らにわいせつな電磁的記録を取得させるのであって,その行為は「頒布」の一部を構成するものと評価することができるから,被告人らは,刑法175条1項後段にいう「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録・・・を頒布した」というに妨げない。
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6 東京高裁の論理は間接正犯的な論理を用いるものであるが、受領者に事実認識がある本件のような場合、前記のとおり,行為論段階で、その論理は破綻するものと思われる。 東京高裁の判示は,刑法の基礎である「行為論おける理論的検討」が不十分,ないしは検討をしていないのではないかとの疑いも認められるものであり不当である。
 本稿の論理は「犯罪の結果」概念の検討により、日本国刑法の適用を肯定するものである。
 なお、下記最高裁判決は、頒布行為も肯定し、かつ、国内における結果発生も肯定している。
 
 
7 最高裁平成26年11月25日判決
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  刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと解される。
 そして,前記の事実関係によれば,被告人らが運営する前記配信サイトには,インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって,顧客による操作は被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず,被告人らは,これに応じてサーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。
 したがって,不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。
 また,前記の事実関係の下では,被告人らが,同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも,同条2項所定の目的を有していたことも明らかである。
 したがって,被告人に対しわいせつ電磁的記録等送信頒布罪及びわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立を認めた原判断は,正当である。
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第二
(わいせつ物頒布等)
刑法175条
 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、
・・・「物」であるから,有体物に限定されるか,,
・・・頒布 と 陳列
二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。
  電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
・・・ここは,物ではない,データを射程距離に入れているか
・・・ここは,頒布 のみ  
       陳列 は規定せず,,
2  有償で頒布する目的で、
   前項の物を所持し、又は同項の
・・・ここは有体物か
   電磁的記録を保管した者も、
・・・ここで  ファイルを いれるか,,
同項と同様とする。
 
最高裁平成13年 7月16日 第三小法廷 決定
 次に、同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは、その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。
 被告人が開設し、運営していたパソコンネットにおいて、そのホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置させたわいせつな画像データを再生して現実に閲覧するためには、会員が、自己のパソコンを使用して、ホストコンピュータのハードディスクから画像データをダウンロードした上、画像表示ソフトを使用して、画像を再生閲覧する操作が必要であるが、
 そのような操作は、ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを再生閲覧するために通常必要とされる簡単な操作にすぎず、会員は、比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった。
 そうすると、
 被告人の行為は、ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを不特定多数の者が認識できる状態に置いたものというべきであり、わいせつ物を「公然と陳列した」ことに当たると解されるから、これと同旨の原判決の判断は是認することができる。
 
第三 わいせつ電磁的記録のダウンロードと犯罪態様
 
1 ブラウザーを介してのダウンロードは,テンポラリーファイルのダウンロードで,基本的に,PCの電源切断により抹消されるファイルであり(最近のブラウザーは抹消しないものも多いらしい,,,??),ダウンロードをした人に,当該ファイルの継続的な保持をさせないものであることから,犯罪態様としては「わいせつ物の公然陳列」となる。
 
2 他方,ブラウザーを介さない態様でのダウンロードは,ダウンロードをした人に,当該ファイルの継続的な保持をさせるものであることから,犯罪態様としては「わいせつ物の頒布」となる。
 
3 判決の論理について,「非常に表面的な考察である。画面キャプチャーを使えば、どちらも同じことである。」というような見解もあるようだが,刑罰法規における行為の評価は,国民の多数の一般人の知識,知見を前提とするものであり,現時点において,動画を画面キャプチヤーで保存するというような方法は,必ずしも,一般的な手法とまでには至っていないことから,(将来は別として)判決の論理に不合理な点はないように思える。
  「動画を閲覧する」,「動画ファイルを取得,保持する」という行為,用語と国民一般の意識の問題でもある。
 
 
テンポラリファイル 【 一時ファイル 】 temporary file / .tmpファイル
 ソフトウェアが、作業中のデータの保存のために一時的に作るファイル。メモリ上に格納しきれない巨大なファイルの一部を一時待避させたり、編集中のファイルのバックアップを取ったり、クリップボードの内容を保管しておくなど、様々な用途に使われる。ほとんどの場合、ソフトウェアの終了と同時に消去されるため、ユーザが意識することはあまりない。テキストエディタなどでは、テンポラリファイルの上限容量をユーザが設定できるようになっているものもある。
http://e-words.jp/w/E38386E383B3E3839DE383A9E383AAE38395E382A1E382A4E383AB.html
 
キャッシュ 【 cache 】
 使用頻度の高いデータを高速な記憶装置に蓄えておくことにより、いちいち低速な装置から読み出す無駄を省いて高速化すること。また、その際に使われる高速な記憶装置や、複製されたデータそのもののこと。
 例えば、メモリはハードディスクに比べれば何百倍も高速にデータの読み書きが行えるため、使用頻度の高いデータをメモリ内に保持しておくことにより、すべてのデータをハードディスクに置いた場合よりも処理を高速化することができる。この場合、メモリ(に複製されたデータ)がハードディスクのキャッシュである。
 同様の手法は通信においても利用することができ、低速な通信回線を使って読み込んだデータをハードディスクに蓄えておくことにより、次からは高速にデータを閲覧することができる。
http://e-words.jp/w/E382ADE383A3E38383E382B7E383A5.html
 
4 しかし,第一の6記載の論理からすれば,上記1記載の論理は破綻するか,,,??
  大阪・奥村徹弁護士が言われるように,「ブラウザであってもDLして閲覧する場合も、データは閲覧者のpcに保存されたものを見ているので、同じです。でも、改正前にはデータを送るという構成要件がなかったので、あたかも、閲覧者のpcからサーバーをのぞき見るような構成でしか処罰できなかったので、公然陳列罪という説明をしていた。 今回の刑法改正で電気通信の方法による頒布罪ができて、それがピッタリなので、それに代えたということでしょう」というのが正しいのかもしれない。