犯罪被害者の裁判関与は
      刑事訴訟の本質と相容れない!!
 
            平成19年3月13日
                大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
 
一 犯罪被害者関与
 
1 今、犯罪被害者を刑事訴訟に関与させようという立法が検討されている。
  これは阻止しなければならない。
 
2 「犯罪被害者の悲しみや苦しみ、そして、その声が刑事訴訟に反映されていない」という声を無視してはいけない。
  仮に、そのような問題点があれば、公訴遂行の責任を負う検察官が被害者の声が刑事訴訟に反映されるように努力すべきである。
 
3 犯罪被害者の声が刑事訴訟に反映されていないという問題があったとしても、そのために、「犯罪被害者を刑事訴訟に関与させるという方法」を採用してはならない!!
  なぜなら、「犯罪被害者を刑事訴訟に関与させるという方法」は、刑事訴訟の本質と相容れないからである。
 
二 刑事訴訟の本質と刑事裁判所の役割
 
1 批判的国家権力という本質を忘れた裁判所
  http://www.zunou.gr.jp/hattori/kyukei.htm
4 刑事司法の崩壊と裁判員制度に求められるもの
  http://www.zunou.gr.jp/hattori/houkai.htm
 
三 刑事訴訟の本質と犯罪被害者関与の相克
 
1 「批判的国家権力という本質を忘れた裁判所 」及び「刑事司法の崩壊と裁判員制度 に求められるもの」に記載したとおり、刑事訴訟の本質は、「検察官の提出した犯罪証拠」と「検察官の求刑」に対する批判的検討の場というところにある。
 
2 刑事訴訟において、批判的な検討を受け、ある意味、裁かれるのは公益の代表者である検察官である。
  刑事訴訟において、第一次的に検察官を裁くことにより、その反射的な結果により、第二次的に被告人を裁き、場合によっては被告人の生命を奪うことも認められているのである。
 
  このように第一次的に検察官を裁くことにより、第二次的に被告人を裁くという弾劾主義刑事訴訟の構造は、「流血の歴史のなかから 人間が学んだ人間の能力に対する不信と個人を信用してはいけないという人間の知恵」の結集であり、「このようなシステムこそが、裁く者から、予断と思いこみと偏見を排除し、公正な司法を実現する方法」であり、「このシステムこそが真実発見に資する」という歴史が人間に教えた知恵なのである。
5 刑事訴訟に被害者を直接関与させることは、上記の刑事訴訟の構造そのものを破壊してしまう結果となる。
  被害者を刑事訴訟に直接関与させてはならない。
 
四 犯罪被害者関与による刑事訴訟構造の変質の危険性
 
1 犯罪被害者の刑事訴訟への予断と偏見
  犯罪被害者は、必ずしも、検察官の証拠評価、処罰要求の内容と同一の意見を持つとは限らない。
  場合により、検察官の処罰要求(求刑)を不当に軽いと考える場合もある。
 
  しかし、一つだけ言えることがある。
  それは、検察官の処罰要求は、犯罪被害者の最低限度の要求になってしまうというところにある。
  犯罪被害者は
イ 検察官の「被告人が犯人である」という主張と
ロ 検察官の「被告人に求める処罰の内容、刑罰の内容」
について、最低限度の要求と捉えることが多いのである。
 
  そのような犯罪被害者の対応は、(検察官が言うのだから)「被告人が犯人である」と断定し、(検察官が求め、そして被害者である自分達の悲しみを考えれば)「被告人を処罰すべきである」という判断に結びついていくのである。
 
2 刑事裁判所の批判的国家権力構造の喪失
  そこには、「検察官が提出した被告人が犯人であるという証拠が十分あるのか否か」、また、「検察官の処罰要求が重すぎはしないのか」という批判的検討は、一切排除されてしまう。
 
  犯罪被害者が関与することにより、被告人・弁護側の行う「被告人が犯人であるとする検察官提出の証拠が十分なものか否か」という批判的検討や「検察官の処罰要求が重すぎはしないのか」という批判的検討封じてしまう危険性があるのである。  
 
  被害者の死を、悲しみ、嘆く遺族を前にすれば、、、、、被告人、弁護側は、検察官に対する批判的検討はしにくくなるのである。
  被害者の死を、悲しみ、嘆く遺族を前にすれば、、、、、弁護人は、発する言葉を喪失してしまうのである。
 
  被害者が刑事訴訟に関与することは、被告人・弁護側の検察官の主張に対する批判を封じる結果となり、ひいては刑事裁判所の「批判的国家権力」という本質的な使命、特質を喪失させる結果となるのである。
 
五 犯罪被害者の声の反映と健全なる刑事訴訟の維持
 
1 犯罪被害者の声を無視してはならない。
2 しかし、犯罪被害者の声を刑事訴訟に反映させるについては、「批判的国家権力」という刑事裁判所の本質的な使命、特質を喪失させてはならない。「批判的国家権力」という刑事裁判所の本質的な使命、特質と両立できる形での方策を追求すべきである。
3 「犯罪被害者の声を刑事訴訟に反映させる」という理由で、「犯罪被害者の訴訟関与」の立法をもくろむ検察、法務当局の発想は、
イ 自らの知恵と責任で実現すべきことを放棄
ロ 流血の歴史のなかで、人間が獲得した刑事裁判所の「批判的国家権力」という本質的な役割、使命を喪失せしめ
ハ 刑事訴訟を、批判的検討の場から、報復の場へと変質させてしまうのである。
 
4 被害者の方には、申し訳ないけれど、被害者の方を刑事訴訟に関与させるということについては反対しなければならない!!
 
  裁判関与を求める被害者の方に考えて欲しい!!
 
      あなたの知人、子供たち、孫たち、親族も、そして、あなた自身も
    いつ
  被告人として裁かれる身になるかもしれない!!
 
  流血の歴史が、人間に与えてくれた、、、知恵の結集を
                           つぶさないで、下さい、、、、、、と!!


弁護士五右衛門のホームページ
↓クリックする↓