貸金参考判例など
 
−書籍は、主として金利計算の方式等を解説したものであり、貸金業法の解説書ではないので、
 貸金業法関連の裁判例等実務に参考となる裁判例等を掲載しておきます−
 
                      大阪弁護士会所属
                    弁護士 服 部 廣 志
 
   誤植告知→ http://www.zunou.gr.jp/hattori/gosyoku.htm
   各消費者金融業者の採用計算方法→ http://www.zunou.gr.jp/hattori/gyosya.htm
 
 
37 名古屋高裁金沢支判平21.6.15(判タ2010/1/15号)
   愛知県一宮支部の瀧弁護士のMLへの投稿 
 
@純粋・残高無視計算を採用している。
 貸金業者に取引履歴の開示義務違反がある場合は、要旨「不当利得返還請求の要件事実として、控訴人(借主)から被控訴人(貸主)への金員の交付(弁済)のみを主張すれば足り、貸主において、貸付け(貸付年月日、貸付金額、弁済期、利息の約定を含む。)及びこの貸付けに基づいて上記金員の交付が行われたことを立証しない限り、借主が主張立証する最初の金員の交付(弁済)時の貸付残高は0円とするのが相当である」として、純粋残高無視計算を採用しています。
 CFJだろうと、旧GEだろうと、ニコス、オリコ、ジャックス、セゾンでも、取引履歴の開示義務違反があることは、明白です。
A704条後段の性質を不行為責任と解しながら、損害として弁護士費用を認めている。
(最判21.11.9については、解説で触れていない)
 
 
36 平成21(受)247 不当利得金返還請求事件・平成21年11月09日 最高裁判所第二小法廷 判決
 
2 原審は,次のとおり判断して,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。
 民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること, 善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されていることなどに照らすと,同条後段の規定は,悪意の受益者の不法行為責任を定めたものではなく,不当利得制度を支える公平の原理から,悪意の受益者に対し,その責任を加重し,特別の責任を定めたものと解するのが相当である。したがって,悪意の受益者は,その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合であっても,民法704条後段に基づき,損害賠償責任を負う。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照),不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)のとは,その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。
したがって,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。
4 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為が不法行為には当たらないことについては,原審が既に判断を示しており,その判断は正当として是認することができるから,被上告人の民法704 条後段に基づく損害賠償請求は理由がないことが明らかである。よって,被上告人の民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償108万円及びこれに対する遅延損害金の請求を107万1247円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消し,同部分に関する被上告人の請求を棄却し,上記請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却することとする。
 
35 最高裁判所第二小法廷平成21年03月06日判決
 
 前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。
 そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,これにより過払金返還請求権の行使が妨げられていると解するのが相当である。
 借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第84 4号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20 年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2頁参照)。
 
34 最高裁第一小法廷平成21年2月22日判決
 
 取引終了時から時効起算=過払い金返還訴訟で初判断−最高裁
    1月22日15時18分配信 時事通信
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 利息制限法の上限を超える金利を支払わされた東京都内の男性が、信販会社に過払い金の返還を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(泉徳治裁判長)は22日、返還請求権の消滅時効は、過払い金発生時ではなく、借り入れや返済などの取引終了時から起算されるとの初判断を示し、信販会社側の上告を棄却した。約319万円の過払い金全額を支払うよう命じた二審判決が確定した。
 返済を続けている間は時効が進行しないことになり、借り手側に有利な判断。これにより、消費者金融や信販会社のカードローンへの過払い金が、時効により消滅する例はほとんどなくなるとみられる。
 同小法廷は、借り入れと返済を繰り返す契約を結んだ場合、過払い金を新たな借金の返済に充当できるとした2007年の最高裁判決を引用。こうした契約がある場合、一連の取引を継続している間には、借り手側が過払い金を請求することは想定されておらず、時効は進行しないと判断した。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090122-00000101-jij-soci
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33 大阪高裁第12民事部平成20年3月28日判決(ML投稿より)
 
 判示事項の要旨】
「貸付@及び貸付Aについて、それぞれ、その取引期間中は、貸主と借主との間で継続的に消費貸借取引が行われていたもので、前記説示のとおり、いったん過払金が発生しても、これがその後の貸付に係る債務に充当される可能性がある状態が継続することになるから、それぞれの取引が完済扱いとなったり、あるいは、被控訴人の方で以後の追加貸付を受けることを断念して明確に取引を終了させて過払金返還請求をするなどしない限り、取引継続中の個々の過払金返還請求権の消滅時効は進行しないものと解するのが相当である。」
 
32 最高裁第二小法廷平成20年1月18日判決
 
 (1)同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。
 そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
 
31 神戸地裁平成19年11月13日判決
 過払い金返還訴訟:プロミスに賠償命令 違法性認定、救済範囲拡大−−神戸地裁判決
 http://mainichi.jp/kansai/news/20071211ddf001040002000c.html
 利息制限法の上限を超える金利を消費者金融大手のプロミスに支払った兵庫県淡路市の女性が、同社に過払い分の返還を求めた訴訟で、神戸地裁(橋詰均裁判長)が同社に損害賠償を命じる判決を言い渡していたことが分かった。過払い金を損害賠償の対象として認めた判決は全国初という。【酒井雅浩】
 消費者金融への過払い金は、不当利得として返還請求するのが通例。請求権は10年で時効が成立するため、少なくとも完済後10年以上たった場合は提訴できない。損害賠償の時効は被害を知った時から3年。過払いが分かり3年以内に提訴すれば賠償の可能性がある。判決は確定、関係者は「被害者にとって画期的」と評価している。
 判決によると、女性(62)は81年ごろに同社と契約を結んで計50万円を借り、90年9月までに145万円を返済した。06年6月に弁護士と別件で相談中に過払いが判明。女性はうち約79万円が過払いにあたるとして、不当利得返還と損害賠償の2通りの請求理由で同年11月に洲本簡裁に提訴したが棄却され、神戸地裁に控訴した。
 11月13日の地裁判決は、不当利得返還請求権は時効で消滅したが、「過払い金を受け取ったことは、債務者の無知に乗じたもので違法」と判断。プロミスに利息を含め約91万円の賠償を命じた。
 判決文抜粋
 第2 予備的請求について
1 貸金業法が施行されたのは昭和58年11月1日であり,本件取引開始時において,貸金業法はいまだ施行されておらず,かつ,同法附則6条1項は,貸金業者がこの法律の施行前に業として行った金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づき,この法律の施行後に,債務者が利息として金銭を支払ったときは,当該支払については,第43条第1項及び第2項の規定(みなし弁済の規定)は,適用されないとしているから,貸金業法が本件取引に適用される余地はない。
 したがって,本件取引において,超過利息の支払が貸金業法により有効な利息の債務の弁済とみなされる余地は全くなかった。
2 ところが,甲第1及び第2号証によれば,被控訴人は,本件取引開始当初は,年利にして47.45パーセント,昭和59年11月28日以降は,元利金が完済された昭和60年6月以降も,年利にして39.5パーセントもの違法な利率で計算された利息の支払を求め,その利息の支払を受領していたこと,約定利率は,最終弁済がされた平成2年9月当初においても年利にして36パーセントを超える高利であったことが明らかである。
3 利息制限法の各規定が強行規定であることは,その体裁上明らかであり,貸金業者である被控訴人は,当然そのことを認識していたと認められる。また,利息制限法1条2項及び4条2項に関し,判例(最判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁及び最判昭和43年11月13日民集22巻12号2526頁)が,同法所定の上限利率を超える利息及び損害金が支払われた場合に,その超過利息等は元本に充当され,元本が完済された後に支払われた弁済金については,不当利得として返還を求めることができるとの規範を採用し,それが法規範として通用していることも貸金業者にとっては公知の事実であると認められる。
 そして,本件取引には貸金業法が適用されないこと(これも,被控訴人は当然に認識していたというべきである。)に照らせば,被控訴人が,本件取引において,支払われた超過利息を利息ないし損害金として適法に保持する余地はなく,適法な営業を前提とする限り,残元本があれば超過利息は元本に充当し,元本完済後の弁済金は不当利得とする以外の計算を行うことは,およそ観念できなかったのである。
 したがって,被控訴人は,本件取引にあっては,超過利息が支払われても,それを利息制限法所定の利率に引き直して債権管理を行うべきであったといわざるをえない。そうすると,被控訴人は,法人としては,元本完済後の弁済金(本件取引にあっては昭和60年6月26日以降の弁済)についても,不当利得として返還せざるを得ないものであることも認識し,あるいは当然に認識すべきであったといえる。
 しかるに,被控訴人は,原判決別紙取引履歴一覧表記載のとおり,元本完済後も約定利率に従った利息の支払を求め,超過利息を受領し続けていた。債務者が,元本が完済されているのに,なお弁済として金員を支払おうとする場合は,元本の完済を認識していないと考えるのが通常であるし,それが利息制限法等の法令に通暁していないことに起因することもまた明らかである。
 以上によれば,被控訴人がした過払金となる弁済金の受領行為は,債務者である控訴人の無知に乗じ,適法に保持し得ない金員を収受するものというべきであるから,社会的相当性を欠く違法な行為といわざるを得ず,民法709条所定の不法行為を構成する。
 
30 大阪高裁平成19年8月9日判決
 灰色金利「請求は違法」 大阪高裁、過払い金支払い命令2007年08月09日
 消費者金融会社に利息制限法の上限を超すグレーゾーン(灰色)金利分の返還を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁の渡辺安一裁判長が「灰色金利による請求は違法な架空請求に類似する」との判断を示し、業者に対して、過払い金のほか、慰謝料や弁護士費用など計310万円を原告の男性に支払うよう命じていたことがわかった。灰色金利は09年末までに廃止されることが決まっており、同様の判断は4月に札幌高裁も出している。
 裁判は、奈良市内の男性(62)が、「ほのぼのレイク」で知られる大手消費者金融「GEコンシューマー・ファイナンス」(東京都港区)を相手取り、過払い金など330万円の支払いを求めて昨年3月に提訴。一審の奈良地裁判決は、約280万円の支払いを命じたが、双方が控訴していた。
 渡辺裁判長は、過払い金は法律上の不当利得で、知っていた業者は「悪意の受益者」にあたると指摘し、「元本が無くなるまでは一部、元本が無くなった後は全部が存在しない債務」と不法行為を認定した。さらに貸金業規制法で例外的に灰色金利での請求が認められている「みなし弁済」を主張した業者側に対し、「訴訟になれば無効となる可能性が極めて高いことを認識しながらあえて請求し、受け取ってきた」と断じた。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200708080141.html
 
29 最高裁判所平成19年7月13日のふたつの判決
原審は,次のとおり判断して,
 本件各契約書面は,貸金業法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)ということができるとして,同法18条1項所定の事項を記載した書面の交付を欠く弁済を除く本件各弁済について同法43条1項が適用されることを前提に過払金の額を算定し,かつ,過払金について,被上告人は本訴の訴状が送達されるまでは悪意の受益者であるということはできないとした。
 
(1) 本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に元利金として一定額の記載があるから,本件@〜J貸付けに係る本件各契約書面は,償還表が別紙として添付されているか否かにかかわらず,貸金業法17条1項9号,貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チの各回の「返済金額」の記載要件を充足する。
 
(2) 民法704条にいう「悪意」とは,法的に不当利得の返還義務を負っていることを認識していることを意味するものであり,貸金業者において貸金業法43 条1項が適用される可能性があることを認識している場合には上記の認識があるとはいえない。貸金業者は,資金を高利で運用して利益を得るという経済活動をしているとはいえ,個々の顧客について常に同項の適用の有無を把握していたと断定することはできず,このことは被上告人についても同様である。
 
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
 その理由は,次のとおりである。
 
(1) 原審の上記3(1)の判断について
 貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解されるから,貸金業法17条1項所定の事項の記載があるとして交付された書面の記載内容が正確でないときや明確でないときには,同法43条1項の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(受)第1653号同18年1月24日第三小法廷判決・民集60巻1号319頁参照)。
 
 これを本件についてみると,17条書面には各回の「返済金額」を記載しなければならないところ(貸金業法17条1項9号(平成12年法律第112号による改正前は同項8号),施行規則13条1項1号チ),前記事実関係等によれば,本件各契約書面の「各回の支払金額」欄には「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は本件各契約書面と併せて一体の書面をなすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされているものであって,「各回の支払金額」欄に各回に支払うべき元利金が記載されているとしても,最終回の返済金額はそれと一致しないことが多く,現に本件においても相違しているのであり,その記載によって各回の返済金額が正確に表示されるものとはいえないというべきである。
 
 それにもかかわらず,原審は,本件@〜J貸付けにつき,償還表の交付の有無についての認定判断をしないで,本件各契約書面の交付をもって,17条書面の交付があったものと認められると判断したものであるから,原審の上記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 
(2) 原審の上記3(2)の判断について
 金銭を目的とする消費貸借において利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,少なくともその一部については貸金業法43条1項の適用が認められないというのであるから,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であると推定されるものというべきである。
 
 そうすると,上記特段の事情の有無について判断することなく,貸金業者において貸金業法43条1項が適用される可能性があることを認識している場合には悪意の受益者ということはできないとして,同項が適用されない弁済について被上告人は訴状送達の日までは悪意の受益者であるということはできないとした原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。
 
3  以上によれば,論旨はいずれも理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分のうち,不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,償還表の交付の有無,上記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,・・・・・よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 
原審は,次のとおり判断して,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることはできないとした。
 
 悪意の受益者とは,法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうところ,法律上の原因の存否は,受益者の利得について問題とされるものである以上, 受益者が法律上の原因がないことを知っているというためには,当然,当該利得の存在を知っていることをも要するものというべきであるが,被上告人が過払金の発生当時において,過払金の発生を知っていたと認めることはできない。仮に,受益者が法律上の原因がないことを基礎付ける事実を認識している場合には自己の利得に法律上の原因がないとの認識を有していたことが事実上推定されると解したとしても,この点に関する最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁(以下「平成11年判決」という。)の前はもとより,最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたのであるから,本件では上記推定は妨げられるとい
うべきである。
 
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
 その理由は,次のとおりである。
 金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法70 4条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。
 
 平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと判示したものである。
 
 被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。したがって,平成11 年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。
 
 なお,平成16年判決は,債務者が貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではない。
 
 そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。
 したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 
5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 
29 高岡簡易裁判所平成19年2月27日判決(消費者MLより)
 704条後段の損害として不当利得返還請求訴訟の弁護士費用を認める判決
 「民法704条後段の責任は,悪意受益者の返還義務を,利得の返還という枠を越えて加重したものであり,不法行為責任ではなく,同条後段に基づく特別の責任と解すべきであろう。したがって,本件不当利得返還請求権を実現するため,訴訟提起を余儀なくされ,これを弁護士である原告代理人に委任した場合には,その弁護士費用は,相当と認められる額の範囲内のものである限り,損害賠償の対象となる。」
 
28 最高裁平成19年2月13日第三小法廷判決
 (1)原審の上記3(2)の判断について
 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1 の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1 貸付け過払金」という。),その後,同一の貸主と借主との間に第2 の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,第1 貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。なぜなら,そのような特段の事情のない限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があるのであり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである。
 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,上告人と被上告人との間で基本契約は締結されておらず,本件第1 貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生した平成8 年10 月31 日の後に,本件第2 貸付けに係る債務が発生したというのであるから,上記特段の事情のない限り,本件第1 貸付けに係る債務の各弁済金のうち過払金となる部分は,本件第2 貸付けに係る債務に充当されないというべきである。
 そうすると,本件において上記特段の事情の有無について判断することなく,上記過払金となる部分が本件第2 貸付けに係る債務に当然に充当されるとした原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 
(2)原審の上記3(4)の判断について
 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704 条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5 分と解するのが相当である。なぜなら,商法514 条の適用又は類推適用されるべき債権は,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,上記過払金についての不当利得返還請求権は,高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって,営利性を考慮すべき債権ではないので,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできないからである。これと異なる原審の上記3(4)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 
27 大阪地裁民事24部平成18年7月10日判決(日弁連消費者ML投稿より)
 対プロミス過払い金返還請求訴訟において、認容金額の約1割相当の弁護士費用を民法704条後段により、認容したとのこと。
 
26 高松高裁平成18年6月29日判決(日弁連消費者ML投稿より)
 「確かに、原判決が説示するとおり、利息制限法所定の利率を超える利息を弁済した結果発生する過払金についての不当利得返還請求権は、法律の規定によって生じる債権であるから、商法514条が本来予定する商行為によって生じた債権ということができないことは明らかである。
 しかしながら、民法704条がいわゆる悪意の受益者に対して「利息」を付した返還義務を規定した趣旨は、利得財産から通常発生すべき付加利益を併せて返還させることによって最小限の損害賠償をさせるためであると解される。
 被控訴人は、株式会社として商人であり、かつ、貸金業者として、法律上の原因なくして利得した控訴人からの過払金を自己の営業のために利用して収益を上げていたと推認できるから、商取引における資金需要の繁忙と投下資本による高収益の可能性から定められた商事法定利率年6分の割合による利息は、本件においては利得財産から通常発生すべき付加利益と考えることができる。
 そうすると、本件取引に関しては、商事法定利率である年6分の割合による利息を付して返還させることが民法704条の趣旨に合致するというべきである。したがって、本件における同条による利息の利率は、年6分と解するのが相当である。」
 
 宮崎県弁護士会の宮田尚典弁護士によれば、「本年5月以降、100%の高裁が民法704条の利息の利率を年率6%としている。東京高裁2件、福岡高裁本庁1件」ということである。
 
25 最高裁・日掛け金融超過利息は無効2006/1/24
 日掛け金融:「超過分利息は無効」 最高裁が初判断
 特例的に利息制限法の上限金利を上回る50%超の高金利で貸付が出来る「日掛け金融」を巡り、超過分の利息受領の有効性が争われた2件の訴訟の上告審判決が24日、最高裁第3小法廷(上田豊三裁判長)であった。法定返済期間の経過前に借り換え契約を結び、残債を一括弁済させたうえで追加融資を繰り返す貸付について、判決は「超過分受領の要件を満たしていない」との初判断を示した。借り換え契約は日掛け金融が一般的に取り入れている貸付方法。同種の訴訟に影響を与え、借り手救済が前進しそうだ。
 ◇借り手救済、さらに前進
 利息制限法は上限利息を年利15〜20%と規定しているが、貸金業規制法には業者が貸付時などに一定の書面を交付し、借り手が任意に払った超過利息を有効とする「みなし弁済」規定がある。通常業者は29.2%が上限だが、日掛け金融は特例的に(1)返済期間100日以上(2)返済期日の半数以上は融資先に出向いて集金する−−などを要件に54.75%まで受領出来る。
 原告は日掛け金融「ダイヤモンドリース」(福岡県久留米市、廃業)から、96年と98年に当時の上限に当たる年利109.5%で40〜50万円の融資を受けた自営業者2人。「借り換えで100日以内に返済が終わり、交付書面にも不備があったため超過分の利息は無効」と主張した。第3小法廷は「契約書だけでなく、実際の取引で返済期間を100日以上としなければ超過分を受領できない」と述べ、過払い利息額の確定などのために審理を福岡高裁に差し戻した。【木戸哲】
毎日新聞 2006年1月24日 12時53分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060124k0000e040060000c.html
 
24 シティ−ズ 約定利息不払いと期限の利益喪失 最高裁2006/1/18
 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,平成12年7月6日,上告人Y1に対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人Y2は,同日,被上告人に対し,上告人Y1の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア 利息 年29%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 返済方法 平成12年8月から平成17年7月まで毎月20日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約 上告人Y1は,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
 (3) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,上告人Y1に対し,「貸付及び保証契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
 貸付及び保証契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年29.2%とする約定が記載されていた。
 (4) 上告人Y1は,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 被上告人は,上告人Y1に対し,本件各弁済の都度,直ちに「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
 本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,上告人らに対し,本件貸付けの残元本189万4369円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原審は,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 第2 上告代理人山口利明の上告受理申立て理由二(1)について
 後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人Y1が支払期日に利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人Y1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 しかしながら,法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,同項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に対して交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を相手方に正確に知らしめることによって,後日になって当事者間にその内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。
 そうすると,上告人Y1と被上告人が合意した本件期限の利益喪失特約の内容を正確に記載している貸付及び保証契約説明書は,法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(平成12年総理府令第148号による改正前のもの)所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
 以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 第3 同二(2)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 施行規則15条2項は,貸金業者は,法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり,契約年月日の記載がなくとも,契約番号の記載により,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから,契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法18条1項が,貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図るためであるから,同項の解釈にあたっては,文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。
 同項柱書きは,「貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして,同項6号に,「前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項」が掲げられている。
 同項は,その文理に照らすと,同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は,同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
 (2) 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
 (3) 以上と異なる見解に立って,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 同二(3)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は,何ら不合理なものとはいえず,また,債務者が,この合意により,約定利息の支払を強制されることになるということはできないから,上告人Y1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が,利息の制限額を超える場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきである(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
 そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解される(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)けれども,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,上告人Y1は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は,上告人Y1に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人Y1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,上告人Y1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 したがって,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人Y1が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 
23 リボ払い、書面なしは無効 消費者金融に返還義務 最高裁2005/12/15
 貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであり,17条書面の交付の要件についても,厳格に解釈しなければならず,17条書面として交付された書面に法17条1項所定の事項のうちで記載されていない事項があるときは,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。そして,仮に,当該貸付けに係る契約の性質上,法17条1項所定の事項のうち,確定的な記載が不可能な事項があったとしても,貸金業者は,その事項の記載義務を免れるものではなく,その場合には,当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり,同義務を尽くせば,当該事項を記載したものと解すべきであって,17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 本件各貸付けについて,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって,上告人は,返済期間,返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。そして,17条書面に最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるものと解され,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準じた効果があるということができる。
 前記事実関係によれば,本件基本契約書の記載と本件各確認書等の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載があると解することはできない。したがって,本件各貸付けについては,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 
22 貸金訴訟判決:保証業者側の請求棄却 札幌簡裁2005/12
 貸金返済の保証業者が返済できなくなった顧客の代わりに返済した後、全額の支払いを顧客に求めた訴訟で、札幌簡裁(西山昇一裁判官)は「保証料の名目で不法に暴利を得ようとした保証契約で、公序良俗に反しており無効」として、保証業者側の請求を棄却した。法的規制のない保証契約を悪用したヤミ金被害は全国に広がる傾向にあるといい、裁判を利用した取り立てに判決は待ったをかけた形となった。
 訴えたのは札幌市中央区の不動産関連会社「エムアンドシーコーポレーション」。訴えられたのは多重債務者の男性会社員(34)=同市東区。
 判決は11月30日付。判決などによると、男性は5月、同市中央区の貸金業者から、出資法の上限金利に当たる年利29・2%、1週間後返済の契約で4万円の融資を受けた。男性は同じ日、貸金業者から紹介されたエ社と保証契約を結び、保証料1万2000円を支払った。エ社は7月、返済の滞った男性に代わり、貸金業者に元金と利息など計4万1283円を返済(代位弁済)した。
 この場合、男性がエ社に返済金全額を支払う保証契約になっていた。しかし、男性側は▽この貸金業者はヤミ金業者でエ社と共謀している▽保証料は実質的な利息で、年利109.5%を超える消費貸借契約を無効とした貸金業規制法に基づき無効−−と主張した。
 これに対し、エ社側は「男性が融資を受けた貸金業者はヤミ金業者ではなく、共謀した根拠もない。契約は適法」などと反論した。
 西山裁判官は「この貸金業者はヤミ金業者」と認定。「保証料は金利に換算すると年率1564%、エ社設定の返還期限まででも228%となり、異常に高い。ヤミ金との非難を避けるため、エ社は多重債務で追いつめられた男性の無知につけ込んだ」と判断した。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20051207k0000m040165000c.html
 
21 制限利息金超過利息収受と不法行為
 神戸地裁平成17年?月?日判決
 「利息制限法所定の制限利率を超過する消費貸借上の利息の契約は、その超過部分について無効であるから(利息制限法1条1項)、借主は超過利息を支払う義務を有するものではないが、貸金業法43条は、貸金業者が所定の義務を遵守した場合に、例外的に超過利息の支払を有効な利息の弁済とみなす旨を規定している。したがって、貸金業者は、漫然と顧客から利息制限法所定の制限利率を超過する利息を収受することは許されず、これを収受する以上は、貸金業法43条所定の義務を遵守するよう細心の注意を払う必要があるものと解される。上記の通り、本件消費貸借契約の遅延損害金に関する契約は、出資法5条2項に違反して締結されたものであるので、貸金業法43条2項3号により、本件の控訴人の各支払についてみなし弁済の成立が否定されることになる。そして、出資法5条2項には罰則規定が設けられており、貸金業者が最低限遵守しなければならない規定であるといっても過言ではなく、条文の解釈の相違によるものとはいえ、被控訴人(シティズ)がこれに違反する契約を締結した以上は、貸金業者に要求される上記注意義務に違反したものといわざるを得ない。従って、被控訴人が、出資法5条2項に違反する本件消費貸借契約を締結し、控訴人から、利息制限法の制限利率を超過する利息を収受した行為は、不法行為に該当すると認めるのが相当である」
 
20 貸金業者の取引履歴開示義務
 最高裁判所平成17年07月19日第3小法廷判決
1 貸金業法19条及びその委任を受けて定められた貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)16条は,貸金業者に対して,その営業所又は事務所ごとに,その業務に関する帳簿(以下「業務帳簿」という。)を備え,債務者ごとに,貸付けの契約について,契約年月日,貸付けの金額,貸付けの利率,弁済金の受領金額,受領年月日等,貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項(貸金業者の商号等の業務帳簿に記載する意味のない事項を除く。)を記載し,これを保存すべき義務を負わせている。そして,貸金業者が,貸金業法19条の規定に違反して業務帳簿を備え付けず,業務帳簿に前記記載事項を記載せず,若しくは虚偽の記載をし,又は業務帳簿を保存しなかった場合については,罰則が設けられている(同法49条7号。貸金業法施行時には同条4号)。
2 貸金業法は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結するに当たり,17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を債務者に交付し,弁済を受けた都度,直ちに18条1項所定の事項を記載した書面(以下,17条書面と併せて 「17条書面等」 という。)を弁済者に交付すべき旨を定めている(17条,18条)が,長期間にわたって貸付けと弁済が繰り返される場合には,特に不注意な債務者でなくても,交付を受けた17条書面等の一部を紛失することはあり得るものというべきであり,貸金業法及び施行規則は,このような場合も想定した上で,貸金業者に対し,同法17条1項及び18条1項所定の事項を記載した業務帳簿の作成・備付け義務を負わせたものと解される。
3 また,貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払ったものについては,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えるものであっても,17条書面等の交付があった場合には有効な利息債務の弁済とみなす旨定めており(以下,この規定によって有効な利息債務の弁済とみなされる弁済を「みなし弁済」という。),貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限利率を超える約定利率で貸付けを行うときは,みなし弁済をめぐる紛争が生ずる可能性がある。
4 そうすると,貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付けを受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。金融庁事務ガイドライン3−2−3(現在は3−2−7)が,貸金業者の監督に当たっての留意事項として, 「債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から,帳簿の記載事項のうち,当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」 と記載し,貸金業者の監督に当たる者に対して,債務内容の開示要求に協力するように貸金業者に促すことを求めている(貸金業法施行時には,大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第2の4(1)ロ(ハ)に,貸金業者が業務帳簿の備付け及び記載事項の開示に関して執るべき措置として,債務内容の開示要求に協力しなければならない旨記載されていた。)のも,このような貸金業法の趣旨を踏まえたものと解される。
5 以上のような貸金業法の趣旨に加えて,一般に,債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。
 
19 貸金業法施行規則別表算式の意味(弁済当日の利息金徴収の可否)
   http://www.zunou.gr.jp/hattori/beppyo.htm
 貸金業法施行規則別表に従うと、弁済日当日の残元金計算においては当日利息金を除外して計算すべきこととなる。もちろん、残元金についての当日利息金の加算は当然である。
18 暴利消費貸借契約無効判決(東京高裁2005/3/3判決−ML投稿情報より)
 「利息契約のみにとどまらず、本件消費貸借契約そのものにつき、控訴人の窮状に乗じて、極めて悪質といえる利息契約と一体として締結されたものとして、公序良俗に反し、無効とすべき特段の事情があるというべきであり、もはや法の保護に値しないものといわざるを得ない。」
17 元本含め全額賠償を命じた判決(札幌高裁2005/2/13判決)
 札幌高等裁判所平成17年2月13日判決
 年利1200%の貸金について、利息金及び元金の弁済金額全額の支払いを命ずる判決をしたよう。
16 包括契約(返済方法については,約定最低返済額以上であれば返済額の決定を債務者の任意の決定に任せる内容となっている。)に基づく貸付と法17条書面
名古屋高等裁判所平成16年12月8日判決
 法17条1項の趣旨と本件における契約内容とを勘案すると,本件においても,各借入時において,最低額での返済を続ける(なお,最終返済期間には残額全部を返済する。)ことを前提にした返済期間,返済回数,さらには各回の返済期日及び返済金額を特定して明らかにすることによって,法17条1項の趣旨に沿った「返済期間」「返済回数」等の記載は十分可能である。したがって,「返済期間」と「返済回数」の記載が不可能であることを前提とする控訴人の主張はいずれも採用できない。
 
15 利息制限法と債務の個数(ML投稿情報より)
洲本簡裁平成16年8月6日判決
 本件カード契約において、キャッシングリボルビング払いを選択したものと認められるが、これによる本件各取引の内容は、最大20万円程度の小口の貸付けと(その多くは1万円である。)、これに対する、概ね約1万5000円から約2万2000円程度の弁済が頻繁に繰り返されるというものである。そして、その場合の利息の計算方法は、個々の貸付について計算するのではなく、そのときの全貸付残高を基に計算するようになっており、また、原告の個々の貸付けに対する弁済は、全貸付残高に対する充当が予定されているのみであり、個々の貸付けに対する弁済は全く予定されていないと認められる。
 これらの事情に鑑みれば、本件各取引は、一連、一体のものと考えるのが当事者間の合理的意思に合致するというべきである。
 そうすると本件各取引における、その時々の貸付残高を「元本」とし、これに応じて、利息制限法1条1項所定の制限利率を乗じることとするのが相当である。
 
14 天引き利息とみなし弁済・18条書面の交付要件
最高裁平成16年7月9日第二小法廷判決
イ 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解するのが相当である(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
ロ 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,18条書面をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することが義務付けられているのであるから,18条書面の交付弁済の直後にしなければならないものと解すべきである(前掲最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決参照)。
 前記のとおり,被上告人は,前記各弁済を受けてから7ないし10日以上後に上告人株式会社Y1に対して本件各領収書を交付しているが,これをもって,上記各弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない。
 
13 18条書面の要件
最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決
イ 18条書面は,弁済を受けた都度,直ちに交付することが義務付けられていることに照らすと,貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをもって法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない
ロ 【要旨】本件各請求書のように,その返済期日の弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったもの返済期日前に債務者に交付され,債務者がこの書面を利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があって法43条1項の規定の適用要件を満たすものということはできないし,同項の適用を肯定すべき特段の事情があるということもできない。
 
12 複数債務と利息制限法について
 同一債権者に対し、複数の債務がある場合、利息制限法所定の制限利率は、格別に判定すべきなのか、債務の合算金額で判定すべきなのか、ということが問題視されているようです。
イ 原則として、各債務別に判定すべきであることは、理の当然でしょう。
ロ しかし、「制限利率を回避する目的」で、「債務を小口に分割した」と認められるような場合には合算金額で判定すべきなのも異論はないでしょう。
ハ 上記イ及びロの判定基準とは異なり、同一債権者の場合には、合算した金額で判定すべきというような見解が述べられているのを目にしました。
 しかし、これは法律的根拠、理由がないでしょう。
ニ この問題については、裁判例の収集と分析が必要か。
 
11 過払い金の利息金について
 参加しているML投稿によると、秋田地方裁判所横手支部(2004/6/21)において、過払い金について過払い時から年6分の割合による利息金付加を認める判決がだされたそうです(秋田、京野垂日弁護士のML投稿より)。
 
10 残債務残高と制限利率について
 「10万円以上の借入の後、弁済によって残債務が10万円未満になった場合の制限利率が1割8分か2割か」というような議論は問題になり得ないと思っていたのですが、参加しているML投稿によると、某地裁が2割説というような考え方を採用したものの、東京高裁第7民事部は1割8分説を採用したとのことです(2004/6/17・東京、内藤満弁護士のML投稿より)。
 当然だろうと思います。某地裁のような見解が存在したこと、また、そのような判決をする裁判官が存在したこと自体、驚いています。
 消費貸借契約において、制限利率が変動し得るのは、追加借り入れをするなどにより、新たな準消費貸借契約が成立したと認められる場合などに限定されるでしょう。
 
9 民法所定の期間計算と消費貸借の利息金計算の期間について 
 民法所定の期間計算の場合、原則として初日不算入とされています。従って、1月1日を起算日とすると、初日不算入で、2日から期間進行を始め、1年という期間の終期日は翌年の1月1日となります。
 しかし、消費貸借における利息金計算の場合、最高裁の判例により、原則、初日算入計算です。従って、1月1日を起算日とすると1年という期間の終期日は12月31日ということとなります。
 錯覚される方がおられるようなので、記載しておきます。
 
8 東京高裁平成15年7月31日判決指摘の利息天引き場合の簡便表示計算について 
  下記5の補足説明
 貸付名目元金と受領金額との間で、利息制限法所定の制限利率が同一の場合
ロ 利息金を−天引き−されている場合
ハ 受領元金(みなし利息金控除後の金額 )を貸付元金額として入力計算する
ニ 追加借受の場合も、ハと同様に入力計算させる
ホ いずれも利息金−後払い−計算で計算する
 上記計算をさせると、利息制限法2条計算と同一の計算結果となる、ということです。
 
7 東京地裁平成15/10/30判決は、「悪意認定」で、事実上立証責任転換!(本件を担当された東京・内藤満弁護士から提供を受けました)
 「悪意の受益者」に関する主張立証責任について
 一般に、民法704条所定の「悪意の受益者」とは、受益者において利得に法律上の原因がないことを認識しているものをいうと解されているところ、この点に関する主張立証責任については、考え方が分かれている。
 そこで、以下、金銭消費貸借契約の借主が貸主に対して制限利息を超える約定利息金を支払ったことを原因として不当利得の返還を(請求)し、併せて貸主が704条の「悪意の受益者」にあたるとしてこれに対する利息の支払いほ求める場合における主張立証責任の分配について検討することとする。
 ・・・・
1 いわゆる給付利得に関する「法律上の原因のないこと」の主張立証責任
 まず、前提として、いわゆる給付利得に関する不当利得返還請求権それ自体に関する主張立証責任の分配について考える。
イ 一般に、いわゆる給付利得に関する不当利得返還請求権の要件事実の一つである「法律上の原因のないこと」は、原告において主張立証すべき請求原因事実であると解される(最高裁第2小法廷昭和59年12月21日判決)。
ロ ところで、いわゆる給付利得に関する「法律上の原因のないこと」の主張立証責任は、およそあらゆる法律上の原因がないことを網羅的に主張立証しなければならないものではなく、給付の原因となった法律関係に関する無効、取消又は解除等の原因となる具体的事実(例えば法律行為の要素に錯誤があることなど)を主張立証すれば足りるものと解するのが相当である。
 また、その際には、これらの無効事由、取消事由又は解除事由と併存しつつ、無効、取消又は解除の法律効果の発生を障害する事実(例えば錯誤無効が主張された場合の重過失など)の不存在まで主張立証しなければならないものではなく、これらについては、被告の側でかかる事実の存在を主張立証すべき抗弁事由となると解するのが相当である。
 金銭消費貸借の借り主から貸主に対して制限利息を超える約定利息を支払ったことを原因とする不当利得返還請求における「法律上の原因がないこと」の主張立証責任
 そこで、・・・   
 
6 裁判所採用方式についての誤解など 
  東京、大阪地裁債権執行部が、裁判所に対する債権届け出計算について、端数期間暦年計算方式を採用していることは、別途、詳説ずみである。
 この事実をとらえて、「裁判所実務が採用する利息計算方式は端数期間暦年計算方式である」と断じ、「反復弁済計算についても、この方式を採用するのが正当であるかのように」論じて、端数期間暦年計算方式の反復弁済計算プログラムを公開している方がおられる。
 しかし、これは大きな誤解であると同時に、誤りである。
 事後的な利息金計算に、裁判所が端数期間暦年計算方式を採用していることは事実ではあるものの、これは事後的な一回限りの計算にのみ便宜的に妥当し得るものであり、反復弁済計算には理論的には妥当しないことは別途、詳説したとおりであり、反復弁済計算について、このような便宜的な計算方式が正当であると断じた裁判例をみたこともないし、そのように取り扱う旨の裁判所実務も見たことがない。
 
5 東京高裁平成15年7月31日判決指摘の利息天引き場合の簡便表示計算について 
  利息金天引きされた場合において、「天引き後の実際受領元金額を借受元本金額として、かつ契約元本金額を基準とした制限利率による通常の利息金後払いの方法により元利金計算をすればいい」という東京高裁平成15年7月31日判決指摘の簡便法は、あくまでも、実際受領元本金額と契約元本金額を基準とした制限利率が同一の場合に妥当するものであり、その両者が10万円ないし100万円の前後で、異なった制限利率を適用される場合には妥当しないことに注意する必要がある。
 上記のように異なった制限利率の適用を受ける場合には、やはり二重の利息金計算をする必要があるのである。
 返せ計算くん・6種計算書の追加として収録した利息天引き・利率変動計算版はやはり必要である。但し、収録した利息天引き・利率変動計算版は、1回目弁済期日までの利息金全額を天引きした場合を想定し、1回目の弁済金額入力欄を入力不能にして殺してしまっている。実際の消費者金融においては、1回目の弁済期日においても利息金ないし弁済金を徴収する例があることから、1回目の弁済金額入力欄を生かしおいた方がよかった。
 返せ計算くんの新たな焼き付けをする機会に、補正したいと思っている(制作は完了している)。
 
 (注意−−上記東京高裁の事例は、年365日計算する合意があった事例のようであり、年365日計算をしている。
 現在、頒布中の初版「返せ計算くん」には「年365日計算」は収録していない(制作は完了している)。
 
4 過払い金ある場合の追加借受計算等について 
  東京高裁平成15年7月31日判決
 「過払い金ある場合に追加借受」した場合の計算について、東京高裁平成15年7月31日判決は、「上記の・・不当利得返還請求権は・・期限の定めのない債権であるから、その発生後、直ちに相殺の自動債権とすることができる」旨判示し、「過払い金と追加借受金を相殺処理計算」をしている。正当である。
 従って、過払い金ある場合における追加借受金については、追加追加借受と同時に相殺処理計算をすることとなり、例え初日利息金算入計算の場合においても、追加借受金について、追加借受当日初日の利息金を計上しないこととなる。もちろん、過払い金と相殺処理した残額がある場合、即ち過払い金を超過する追加借受金額については、初日利息金を計上することとなる(初日利息算入の場合)。
 返せ計算くんも、同様の計算構造を採用している。
 
3 法務局採用方式と基準日
イ 利息金計算方法には多種なものがあること、そして各計算方法についても、貸付日基準計算方法と計算単位計算方法の2通りの計算方法があること(全期間暦年計算方法を除く )は「書籍版・消費者金融金利計算の実務」において説明した。
ロ それでは、抽象的2月29日説を採用する法務局の弁済供託の場合には、上記のいずれの方法を採用しているのか。
 「新訂第四版 供託書式」(法務省民事局第四課職員編)46ページ記載の別紙の書式の記載例からすると、「付利期間の初日から・・・」と記載し、「当初の付利期間の初日から・・」との記載ではないことから計算単位説を採用しているように見える。
 ただ、計算単位説を採用するか、貸付日基準説を採用するかにより、計算結果が異なることとなる支払い年月日の例が記載されていないので、確定的な判断は困難ではある。
 
2 両端と片端
イ 弁護士らが参加しているMLで、対貸金業者らとの間の利息金計算について、両端か片端か、などという議論がなされているのを見ることがある。
ロ 不思議にも思います。
 特別な合意がない場合、利息金計算について、両端を採用すべきことは最高裁の判例理論からすれば議論の余地はない。
 殆どの貸金業者らの計算が、初日不算入方式を採用していること、また貸金業施行規則記載の貸付条件の掲示条項が「弁済日の前日までの利息金計算方式」 即ち「弁済日前日までの利息金の表示」を求めていることが関連しているのかもしれない。
ハ 「殆どの貸金業者らの計算が、初日不算入方式を採用している」理由は、貸付及び弁済を反復するような場合の計算をする場合、初日不算入方式を採用した方が計算が簡便であり、コンピューターに計算式を組み込む場合に簡便であるという理由によるものと推測される。
 上記説明が理解困難なら、一度、計算式を考えて見られればいい。追加貸付した当日利息金の計算をどうすべきかを。
ニ また、貸金業施行規則記載の貸付条件の掲示条項が「弁済日の前日までの利息金計算方式」 即ち「弁済日前日までの利息金の表示」を求めていることは、弁済日当日の利息金徴収の可否とは、関係しないと考えるのが素直である。
@ 貸金業施行規則という行政法規が、民法所定の利息金計算方式を修正していると考えること自体に無理がある。
A 貸金業施行規則を素直に読めば、「弁済日の前日までの利息金計算方式」 即ち「弁済日前日までの利息金の表示」を求めているに過ぎないことは容易にわかるものと考える。
B 弁済日当日の利息金を支払いたくなければ、弁済日当日の午前0時00分に弁済すればいいのであり(現実には、困難か)、それをせず弁済日当日の時間が経過してから弁済をするのなら、その1日分の利息金支払いの義務が生じることは自明の論理であろう。
 
1 多様な年利計算方式など
イ 年利計算の方式といっても、多様なものがある。
ロ そのなかで、「計算単位説」のものの数値の異同等は、「私の本屋さん」で頒布している「かんたん計算くん」=「中学生にわかる金利計算」を参照すればわかる。
ハ また、巷にある月利計算書の殆どは−嘘−である。
 真正の月利計算の方法も、「かんたん計算くん」でわかる。
ニ 「かんたん計算くん」は、1回限りの計算ではあるものの、日利計算、月利計算、年利端数期間暦年計算、年利年365日計算、年利端数期間365日計算、抽象的2月29日計算(端数期間2月29日計算)が選択できる。
 通常の、トラブルと無縁の生活をしておられる方であれば、保有していて便利な計算書としては、このかんたん計算くんで十分である。
      http://www.ofours.com/books/41/