危険運転致死傷罪の構成要件と量刑
2006/6/18加筆
                大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
 
 危険運転致死罪については、その立法が拙劣であったためか、最高裁判所が事実上、法律の条文を変更したと評価可能である。
 上告審において争点となっていなかったという点を考慮しても、最高裁平成18年3月14日決定は、まさに立法的判決と評価することができる。
 悲惨な交通事故の多発事情が関係するのか、立法的判決への理論的批判は見あたらない。
 しかし、刑事法の根本原則にからむ問題でもあり、理論的検討を怠ってはならない。
 
一  法令
 
(危険運転致死傷)
刑法208条の2
 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
 その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。
 赤色信号又はこれに相当する信号殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
 
二 最高裁決定−平成18年3月14日
 
 弁護人鈴木久彰の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,危険運転致傷罪の成否につき,職権で判断する。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,以下のとおりである。すなわち,被告人は,平成15年11月25日午前2時30分ころ,普通乗用自動車を運転し,札幌市北区内の信号機により交通整理の行われている交差点手前で,対面信号機の赤色表示に従って停止していた先行車両の後方にいったん停止したが,同信号機が青色表示に変わるのを待ちきれず,同交差点を右折進行すべく,同信号機がまだ赤色信号を表示していたのに構うことなく発進し,対向車線に進出して,上記停止車両の右側方を通過し,時速約20qの速度で自車を運転して同交差点に進入しようとした。 そのため,折から右方道路から青色信号に従い同交差点を左折して対向進行してきた被害者運転の普通貨物自動車を前方約14.8mの地点に認め,急制動の措置を講じたが間に合わず,同交差点入口手前の停止線相当位置付近において,同車右前部に自車右前部を衝突させ,よって,同人に加療約8日間を要する顔面部挫傷の傷害を,同人運転車両の同乗者にも加療約8日間を要する頸椎捻挫等の傷害をそれぞれ負わせた。
 以上の事実関係によれば,被告人は,赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転したものと認められ,被害者らの各傷害がこの危険運転行為によるものであることも明らかであって,刑法208条の2第2項後段の危険運転致傷罪の成立を認めた原判断は正当である。
 所論は,被告人が自車を対向車線上に進出させたことこそが同車線上で交差点を左折してきた被害車両と衝突した原因であり,赤色信号を殊更に無視したことと被害者らの傷害との間には因果関係が認められない旨主張するしかし,被告人が対面信号機の赤色表示に構わず,対向車線に進出して本件交差点に進入しようとしたことが,それ自体赤色信号を殊更に無視した危険運転行為にほかならないのであり,このような危険運転行為により被害者らの傷害の結果が発生したものである以上,他の交通法規違反又は注意義務違反があっても,因果関係が否定されるいわれはないというべきである。所論は理由がない。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官今井功裁判官中川了滋)
 
三 最高裁判決の検討
 
1 法令
 
 刑法208条は危険運転行為について、5つの類型を定めている。
イ アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行
 その進行を制御することが困難な高速度で四輪以上の自動車を走行
ハ その進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行
ニ 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転
ホ 赤色信号又はこれに相当する信号殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転
 
2 危険運転行為と事故発生との因果関係
 
 この危険運転致死罪の構成要件の定め方からすれば、本罪が成立するためには「危険運転行為と事故発生との因果関係」の存在が要件となる。
 前記5類型行為と事故発生との間の因果関係の存在である。
 前記最高裁事案における弁護人の上告趣意は、「本件の場合、被告人が自車を対向車線上に進出させたことこそが同車線上で交差点を左折してきた被害車両と衝突した原因であり,赤色信号を殊更に無視したことと被害者らの傷害との間には因果関係が認められない」というものであり、興味のある論理であった。
 最高裁は「赤信号を無視する」という行為について、「当該車両に対しては、止まれ、という赤信号が対峙していた」という点を捉え、赤信号殊更無視行為を広く解釈しているようにも思える。一、二審の判決にあたっていないことから確定的なことは言えないが、当該車両は対向車線上においても、交差点の停止線を越えて交差点に進入していなかった可能性もあり得ると思われ、仮にそうだとしたら、当該車両は赤信号無視という道路交通法違反の評価を受ける以前の行為であった可能性があるからである(一、二審判決で調査検討予定である)。何故なら、最高裁事案において、当該車両の違反は、赤信号無視というより、走行車線規制違反行為であった可能性があるからである(対向車線上においても、交差点の停止線を越えて交差点内に侵入していた場合は別であるが)。
 
 危険運転致死罪の定めた危険運転行為の類型に、「不足というか、落ちがある」のを最高裁が補充したとも言える。
 
 それとも、「赤色信号又はこれに相当する信号殊更に無視」する行為という構成要件要素は、必ずしも道路交通法所定の「赤信号等無視違反行為」と同一ではないのだろうか?本件のような、赤信号等による侵入規制を潜脱するような行為をも含むのだろうか?
 
3 2項の要件
 
 刑法208条の2の2項に定める危険運転致死罪の類型は、いずれも、「重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転」することをその要件のひとつとしている。
 単に、「通行妨害目的及び通行妨害行為」又は「赤信号等の殊更無視行為」のみでは足りないと規定している。これらの要件プラス「重大な交通の危険を生じさせる速度」を危険運転行為の類型としているのである。
 
4 重大な交通の危険を生じさせる速度
 この「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは一体どの程度の速度を意味するのかが曖昧である。
 自動車事故工学の世界においては、「人間の死亡率が高くなる」と言われているのは「時速30キロ超過速度」である。
 上記最高裁判決の事案においては、時速は約20キロである。時速20キロなら、空走時間、空走距離を含め、約1.5秒、約6.5メートルで停止する速度。
 
 この判決をどう理解すればいいのだろう。
 上記最高裁の事案は「赤信号の殊更無視と事故発生との間の因果関係の存否」と「赤信号の殊更無視」を構成要件とする危険運転致死罪の成否が争点とされており、この「重大な交通の危険を生じさせる速度」は争点とはなっていないようである。
 10キロ以下の微速以外は「重大な交通の危険を生じさせる速度」 ということになるのか?
 
 仮に、10キロ以下の微速以外は「重大な交通の危険を生じさせる速度」 ということになるとすれば、実際上、危険運転致死罪の「重大な交通の危険を生じさせる速度」という」要件は存在しないに等しいものと言える。
 
5 最高裁判決の意味
 
 最高裁は、危険運転致死罪の立法の不備、ないし不十分な行為類型補充しているもののように思える。
 この危険運転致死罪の構成要件ほど、その立法趣旨実現という観点からみると、お粗末な条文はないのかも知れない。立法者が横着をしたのか、又は現実の事故態様を知らない人が立案したのかは不明であるが、立案当局者のお粗末さを最高裁が立法に踏み込む形で補充をしている。
 その是非は国民が判断するのでしょう。
 しかし、罪刑法定主義という刑事法の根本が崩壊していっているようにも思える。
 
 国民の怒りは法を越えるのかもしれない。法のひとつの限界かもしれない?! しかし、「国民の怒り」に依拠し、近代刑事法の根本原則を軽視することは許されない。それはさまざまなところで、より大きな害悪をもたらす危険性があるからである。
 
 
6 特別類型としての構成要件
 
 この危険運転致死傷罪の構成要件は、
イ 業務上過失致死傷罪の特別規定であり、また
ロ 危険運転行為についての故意犯であり
ハ 致死傷の結果については、故意は不要である。結果的加重犯ということとなるのか。
 
 
四 量刑
 
 懲役20年−−18人死亡?? 
 酒を飲んで仙台育英高のウオークラリーの列に突っ込んで18人もの尊い命を傷つけ奪った酔っ払い運転手にの実刑判決が出た
 
 懲役16年−−2人死亡、7人重軽傷
 横浜市都筑区の市道で昨年10月、サレジオ学院の男子高校生の列に乗用車が突っ込み2人が死亡、7人が重軽傷を負った事故で、危険運転致死傷罪に問われた同区東山田町、無職小泉祐一被告(24)の判決が13日、横浜地裁であった。
 栗田健一裁判長は懲役16年(求刑・懲役20年)を言い渡した。
 判決によると、小泉被告は昨年10月17日午前、制限速度40キロの市道で100キロ以上を出して運転。右カーブを曲がりきれず、歩道に乗り上げ、高校生を次々にはねた。
 検察は「公道でサーキットさながらの暴走をしていた」と指摘、法定上限の懲役20年を求刑。弁護側は「65・7キロしか出していない」と、主張していた。
(読売新聞) - 7月13日14時4分更新
 
 懲役15年−−5人死亡
 千葉県松戸市で昨年12月、飲酒運転をして男女5人をはねて死亡させたとして危険運転致死罪に問われた被告の判決が6日行われ、求刑通り懲役15年という判決になった。悪質な交通事故の加害者を厳しく処罰するため2001年12月に施行された危険運転致死罪で、法定最高刑の判決は初めてである。
 
 懲役11年−−3人死亡
 旧相良町(牧之原市)の国道150号バイパスで猛スピードで乗用車を運転し、正面衝突した軽ワゴン車の女性3人を死亡させたとして、危険運転致死罪に問われた御前崎市御前崎の無職の被告(45)の判決公判が25日午前、 静岡地裁で開かれた。竹花俊徳裁判長は「制限速度を100キロも超過する高速で走行したことは、あまりに無謀で悪質。
3人の命が奪われた結果も悲惨で刑事責任は相当に重い」などとして、県内の危険運転致死事件としては最も重い 懲役11年(求刑懲役13年)を言い渡した。
 判決によると、被告は昨年8月28日午前11時20分ごろ、旧相良町落居の国道150号バイパスで、最高速度40キロのところを145―155キロで乗用車を運転し、緩い右カーブで道路左側ガードレールに接触した後、弾みで対向車線にはみ出し、軽ワゴン車と正面衝突した。軽ワゴン車は炎上し、運転していた旧榛原町の女性会社役員=当時(60)=とその家族2人を死亡させた。
 
 懲役4年以上7年以下−−4人死亡
 (罪となるべき事実)
 被告人は,少年であるが,平成14年5月26日午前2時15分ころ,福島市a字bc番地のd付近の最高速度を時速50キロメートルと指定されている左右に湾曲する道路において,その進行を制御することが困難な時速約120キロメートルの高速度で普通乗用自動車を走行させたことにより,自車を道路状況に応じて進行させることができず,左後輪を道路左側側溝に脱輪させて走行の自由を失い道路左側の電柱に激突させ,よって,同乗者のA(当時17歳)に全身打撲の傷害を,同B(当時18歳)に心破裂等の傷害をそれぞれ負わせ,即時同所において,両名を上記各傷害により死亡するに至らしめ,同C(当時19歳)に脳挫傷等の傷害を,同D(当時19歳)に心損傷等の傷害を負わせ,同日午前3時50分ころ,同市ef番地甲県立医科大学医学部附属病院において,両名を上記各傷害により死亡するに至らしめたものである。
  
 懲役5年6か月−−1人死亡
 判決によると、深渕被告は、今年5月22日の未明に酒を飲んで車を運転し、青森市の国道4号でスピード違反でパトカーの追跡を受けて逃走した。そして、赤信号を無視して突っ込んだ青森市中央2丁目の交差点で軽乗用車と衝突し、運転していた当時67歳の男性を 死亡させたもの。
 
 懲役5年−−1人死亡
(犯罪事実)
  被告人は、平成14年10月14日午後11時52分頃、福井県内の北陸自動車道上り線道路において、福井インターチェンジ方面に向かって四輪の普通乗用自動車トヨタ・ハイラックスサーフ(以下「本件自動車」と略称)を運転中、運転開始前に飲んだ酒の酔いにより、眠気等のため前方注視及び運転操作が困難な状態になっていたのに、時速約100キロメートルで本件自動車を走行させ、もって、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で本件自動車を走行させたことにより、その頃、同自動車道上り線において、同一車線を時速約80キロメートルで先行していた甲(当時27歳、以下「甲」と略称)運転の自動二輪車を、その後方約6.7メートルまで接近して初めて発見し、その自動二輪車後部に本件自動車の前部を追突させ、その衝撃により甲を追突地点から約78メートル前方の路上まで撥ね飛ばし、よって、甲に開放性頭蓋骨骨折の傷害を負わせ、翌15日午前零時40分頃、福井医科大学医学部付属病院において、甲を上記傷害に基づく脳損傷により死亡させたものである。
 
 懲役2年6月−−1人死亡
 北海道森町で昨年3月、猛スピードで車を運転し電柱などに激突、助手席の長男=当時(1つ)=を死亡させたとして危険運転致死などの罪に問われた同町の食品加工臨時従業員及川健彦被告(22)に対し、函館地裁は21日、(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。
 
五 立法経過など
 
【衆議院法務委員会付帯決議】
 
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 本法の運用に当たっては、危険運転致死傷罪の対象が不当に拡大され、濫用されることのないよう、その構成要件の内容等も含め、関係機関に対する周知徹底に努めること。
二 本法が四輪以上の自動車の運転者を対象としていることについては、今後の事故の実態を踏まえ、自動二輪車の運転者をも本法の対象とする必要性がないかを引き続き検討すること。
三 刑の裁量的免除規定については、軽傷事犯の取扱いに際し、被害者の感情に適切な考慮を払うこととし、今後における実務の運用をみながら、引き続き検討を行うこと。
四 交通事犯の被害者等に対する情報提供など被害者保護策について、更なる充実に努めること。
五 悪質かつ危険な運転行為を行った者について、運転免許にかかる欠格期間の在り方等を含め更に幅広く検討を進めること。
六 危険運転致死傷罪に該当しない交通事犯一般についても、本改正の趣旨を踏まえ、事案の悪質性、危険性等の情状に応じた厳正かつ的確な処断が行われるよう努めること。
 
【参議院法務委員会附帯決議】
 
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
1 危険運転致死傷罪の創設が、悪質・危険な運転を行った者に対する罰則強化であることにかんがみ、その運用に当たっては、濫用されることのないよう留意するとともに、同罪に該当しない交通事犯一般についても事案の悪質性、危険性等の情状に応じた適切な処断が行われるよう努めること。
2 本法が四輪以上の自動車の運転者に対象を限定していることについては、自動二輪車による事故の実態を踏まえて、その運転者をも本法の対象とする必要性につき引き続き検討すること。
3 刑の裁量的免除規定については、事件の取扱いに際し、被害者の感情に適切な配慮を払うとともに、軽傷事犯についても適正な捜査の遂行に遺憾なきを期すること。
4 交通事犯の被害者等に対する情報提供、精神的ケアなど被害者保護策について、更なる充実に努めること。
5 悪質・危険な運転行為を行った者について、運転免許にかかる欠格期間の在り方等を含め更に幅広く検討を進めること。
6 飲酒運転等の悪質・危険な運転が引き起こす結果の重大さ、悲惨さにかんがみ、これらの運転が許されないことについて国民の意識の一層の向上を図り、事故の未然防止に努めること。
7 本改正と併せて交通事故防止対策の観点から、道路交通環境の整備、交通安全教育の徹底等交通安全施策を一層強力に推進すること。
 
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未整理報道
今林容疑者を危険運転致死傷で起訴…子供3人死亡
 子ども3人が犠牲になった福岡市の飲酒運転追突事故で、福岡地検は16日、同市東区奈多3、元市職員今林大(ふとし)容疑者(22)=懲戒免職=を危険運転致死傷と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪で福岡地裁に起訴した。
 今林容疑者は業務上過失致死傷などの容疑で逮捕されたが、地検は「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態だった」と判断、より刑罰の重い危険運転致死傷罪を適用した。最高刑は懲役25年になる。
 現場は見通しの良い直線で、300メートル以上手前から前方の車を確認できる状態だったにもかかわらず、今林容疑者は「ぶつかる直前まで大上さんの車に気付かなかった」と供述しており、地検は、今林容疑者が事故当時、酩酊(めいてい)状態で、正常な判断や運転操作が困難だったと認定した。今林容疑者は以前から飲酒運転を繰り返しており、「酔ってはいたが、いつもと同じで、運転は大丈夫だと思っていた」と供述しているという。
(読売新聞) - 9月16日21時25分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060916-00000008-yom-soci