マンション管理、実践裁判例など
 
一 管理費その他等の負担と承継
 
(共用部分の負担及び利益収取)
区分所有法19条
 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
 
・規約事項に限定はあるのか
・自治権の範囲 
 
 
(管理費等)
標準管理規約25条
 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てる
ため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
 
(承継人に対する債権の行使)
標準管理規約26条
 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
 
 
大阪高裁平成20年 4月16日判決
 
 法は,区分所有者,管理者又は管理組合法人は,規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について,債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条,7条1項),
 ここにいう債権の範囲は,いわゆる相対的規約事項と解されるものの,法3条1項前段が「区分所有者は,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し,この法律の定めるところにより,集会を開き,規約を定め,及び管理者を置くことができる。」と定め,かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は,この法律に定めるもののほか,規約で定めることができる。」と規律している趣旨・目的に照らすと,建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は,規約で定めることができるものの,それ以外の事項を規約で定めるについては団体の法理による制約を受け,どのような事項についても自由に定めることが許されるものではないと解される。そして,
 各専有部分の水道料金や電気料金は,専ら専有部分において消費した水道や電気の料金であり,共用部分の管理とは直接関係がなく,区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえない事柄であるから,特段の事情のない限り,規約で定めうる債権の範囲に含まれないと解すべきである。
 しかるところ,
 前記事実関係によれば,@本件マンションは,各専有部分は,すべてその用途が事務所又は店舗とされているところ,A本件マンションでは,被上告人が,市水道局から水道水を一括して供給を受け,親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上,各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求していることとしているが,これは本件水道局取扱いの下では,本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができないことに原因し,B被上告人が,関西電力から電力を一括して供給を受け,親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上,各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しているが,これは本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えており,また,本件マンションには純住宅が2軒以上なく電気室供給もできないため,関西電力と本件マンションの各専有部分との間で,電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができないことに原因するというのであるから,本件マンションにおける水道料金等に係る立替払とそれから生じた債権の請求は,各専有部分に設置された設備を維持,使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為であり,当該措置は建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができる。
 そうであれば,被上告人の本件マンションの各区分所有者に対する各専有部分に係る水道料金等の支払請求権については,前記特段の事情があるというべきであって,規約事項とすることに妨げはなく,本件規約62条1項に基づく債権であると解することが相当である
 
 
大阪地裁平成21年 7月24日判決
 
上下水道料金・温水料金について
 区分所有法30条は、規約事項について「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」と規定し、規約事項の対象となる「建物」を共用部分に限定していない。また、
 給排水設備及び給湯設備は、新規約20条1項本文及び別表第2に基づき、管理組合である原告がその責任と負担において管理すべき区分所有建物の附属設備でもある(甲3)。 したがって、上下水や温水が専有部分で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、管理組合が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で有効に定めることができると解すべきである。大阪市の水道事業において集合住宅の使用者が申請すれば各戸計量・各戸収納制度を実施することができるとしても(甲17、24、25、28。枝番を含む。)、そのことは、現に管理組合が規約に基づき全体の使用量を支払っている場合に、これを規約に基づき各区分所有者に対して請求することを妨げる理由にはならない。
 したがって、上下水道料金及び温水料金は、区分所有者の全員で構成された管理組合が、区分所有者全員のために、区分所有法8条により、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)にあたる。
 
 
名古屋高裁平成25年 2月22日判決
 
ア 建物の区分所有等に関する法律(以下、単に「法」という。)は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法八条、七条一項)、法三条前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法三〇条一項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めている趣旨・目的に照らすと、
 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項に限って規約で定めることができるのであり、それ以外の事項を規約で定めても規約としての効力を有しないというべきである。
 そして、専有部分である各戸の水道料金は、専ら専有部分において消費した水道の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないのが通常であるから、特段の事情のない限り、上記の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記水道料金について、各区分所有者が支払うべき額や支払方法、特定承継人に対する支払義務の承継を区分所有者を構成員とする管理組合の規約をもって定めることはできず、そのようなことを定めた規約は、規約としての効力を有しないものと解すべきである。
   イ ところで、記録によれば、上告人は、上記と同旨の主張をし、二〇四号室に係る本件各水道料金について、上告人の被上告人に対する支払義務を定める本件管理規約七四条五項の無効を理由として、同規約に基づいて上告人が被上告人に支払った本件各水道料金を不当利得であるとして、その返還を求めているところ、少なくとも、本件各水道料金のうち本件滞納水道料金については、同規約条項が無効である場合には、上告人がCらの負担した支払義務を承継することがないのであり、そうすると、上告人は、支払義務のない本件滞納水道料金を被上告人に支払ったことになるのであるから、その金額が名古屋市水道局の定める最低料金であったとしても、その支払に係る本件滞納水道料金相当の損失を被り、被上告人は、これを受領することにより、同額の受益をしたこととなることは明らかである。
 したがって、上告人が被上告人に対して支払った本件滞納水道料金について不当利得返還請求の成否を判断するためには、本件管理規約七四条五項の効力の有無(その関係で、前記特段の事情の存否)についての審理判断が不可欠であったというべきである。
 また、記録によれば、上告人は、原審において、管理組合が一括検針一括徴収制度を採用し、各戸に各戸検針各戸徴収制度の基本料金を徴収すると、基本料金以下の使用料しか使わない区分所有者がいる場合には、管理組合は、名古屋市水道局に支払う水道料金よりも多くの金額を各戸から徴収することになり、結果として、実費を超える金額を各戸から徴収することになるのであり、同制度を採用している被上告人についても、同様の事態が生じており、上告人は、被上告人から上記の実費を超える金額を請求されて支払った旨主張し、同制度を採用する他の管理組合について上告人主張のような事態が生じていることを窺わせる証拠(甲一六)を提出するところ、本件管理規約七四条五項が無効である場合には、被上告人が一括検針一括徴収制度の下で区分所有者のために名古屋市水道局に水道料金を支払うことに関する法律関係のいかんによっては、被上告人が上告人に対して請求できる本件取得後水道料金の額は、同制度を前提として実費等の費用相当額に限定されるものと解する余地があるから、上記法律関係について主張立証を尽くさせ、必要に応じて、上記費用相当額についても審理を尽くす必要があったものである。
   ウ ところが、原審は、前記(2)のとおり判示するのみであって、上記イで指摘した諸点について、その審理を尽くしておらず、判断も示していないのであり、これは、法八条、三〇条一項等の解釈適用を誤り、その結果、理由不備の違法、又は判断遺脱、審理不尽として判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反の違法を犯したものというほかない。
 論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由がある。
 二 本件滞納駐車場料金に係る不当利得返還の主位的請求に関する上告理由(上告理由第一章)について
 所論は、原審の「本件マンションの前所有者であるCらが賃借していた駐車場は、Yマンションの共用部分にあたる。そうすると、被上告人は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても駐車場について生じた債権である滞納駐車場料金の支払を請求することができる(法七条、八条)。区分所有者が被上告人へ支払う駐車場料金に滞納がある場合、全滞納額を承継人に対しても請求することができる旨の本件管理規約七四条五項が法二六条一項、法三〇条三項又は信義則、公序良俗、条理に反し無効であるということはできない。Cらが駐車場料金の支払を滞らせたとしても、それによって被上告人に直ちに契約を解除する義務が生じるものではない。」旨の認定判断について審理不尽、理由不備、理由齟齬及び理由遺脱があるというのであるが、同認定判断は、原判決が掲げる証拠関係に照らして正当であって、これを是認できる。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。