岡山方式、元利金計算・過払い金計算書
−準消費貸借契約締結説−
 
                大阪弁護士会所属
弁護士 五 右 衛 門
 
一 岡山方式表示
 
 岡山地方で、「追加借入があった場合、次ぎの弁済日までの期間日数表示について、追加借入当日分を一括して表示することを求める」裁判官がいるようです。
 
 このような表示をする必要性等について、計算プログラム作成の観点から検討してみる(この岡山方式の表示をするものを、新・返せ計算くん版ではなく、端数期間暦年計算書のものを補正して作成してみましたokayamapatern20080219trailversionfordistribution)。
 
二 岡山方式の問題点の整理
 
1 追加借入があった場合、次の計算日までの期間表示をどうするのかという問題
 
2 「追加借入日を含む次の計算日までの日数表示をする」というのが岡山方式
 
3 しかし、追加借入日当日の発生利息金は、追加借入当日分の発生利息金として、追加借入当日に計上すべきものです(以下「従前方式」と略称する)。
 
4 従前方式にたてば、追加借入があった場合においても
 
イ 追加借入当日1日分の発生利息金は追加借入当日分として、当該日に計上する。
ロ 従って、次の計算日に計上すべき利息金は、追加借入当日分を除外した、翌日からの期間の利息金となる。
ハ この発想にたてば、次の計算日に表示すべき期間日数は、当該次の計算日に計上すべき利息金に対応する期間日数の表示をした方が、表示期間と計算利息金との対応関係がはっきりし、簡便で、わかりやすい。
 
 返せ計算くん、新・返せ計算くんで採用している方式です。
 
5 岡山方式を採用するなら、追加借入当日について、当該行の発生利息金を非表示することとなる。
 そして、追加借入金の当日分の発生利息金は、次の行の発生利息金欄に合算表示させるようにする。
 
6 この岡山方式を採用し、かつ追加借入当日の残元利金表示を維持すると、追加借入当日で一度元利金計算を終結させる必要がある。
 ところが、追加借入当日を含む次の弁済日までの期間を表示をしたうえ、その発生利息金を次行に合算して表示するという岡山方式の発想の場合、追加借入当日における計算終結という発想はない
 
 このように「追加借入当日の計算終結」の有無により、利息金切り捨て処理の関係から、1円の誤差が生じる場合がある。
 
7 この1円の誤差の発生を回避したいならば、追加借入当日の未払い利息金及び残元利金額の表示をあきらめる必要がある。
 BrainPower試作の計算書okayamapatern20080219trailversionfordistributionでは、1円の誤差を回避し、未払い利息金及び残元利金額の表示を「0」表示にしている。
 
8 この岡山方式の発想を採用したとしても、過払い金及び過払い金利息金の計算については、非表示行を設定することは不当ということとなる。過払い金と新たな借受金とを相殺処理計算させる必要があるからである。
 従って、「債務についての元利金計算」と「過払い金の元利金計算」において、異なった計算と表示を併存させる必要がある。
 
9 この岡山方式というのは、借受、弁済を反復継続している場合における追加借入行為について、「中間的な追加借受行為」という発想ではなく、強いて言えば「借受行為により準消費貸借契約の締結がなされた」という発想に近いものとなる。
 計算上は、追加借受前日で、一旦計算を終結させ、追加借受当日では計算を終結をさせずに、追加借受行為日を起算日として、新たに計算をし直すこととなるからである。
 
10 いずれにしても、計算終結の有無による1円の誤差の問題である。
 
11 例え計算上は、1円の誤差の問題であるとしても、上記のように「追加借り入れがあった場合、追加借り入れ日を起算日として、計算をし直す」というような「準消費貸借契約締結」を前提とするような計算をするならば、理論的にも、準消費貸借契約の締結を前提とするものとして、例えば、利息制限法による引き直し計算をするような場合には、従前債務の残元金と追加借入金額を合算した金額について、準消費貸借契約の締結がなされたものとして、その合算金額を貸付元金とした制限利率を使用するのが、論理的には一貫しているように思える。
 
 換言すれば、追加借入行為等の存在により、準消費貸借契約が締結されたような場合には、岡山方式を採用するのが理論的には正当ということとなる。
 
 他方、このような取り扱いをせず、単純に、「期間表示のみを合算表示する」というものであったとしたら、殆ど意味のない考え方かもしれない。
 
12 なお、端数期間暦年計算の場合、端数期間についての平年利息金及び閏年利息金については、理論的には合算した後に切り捨て処理すべきものであるところ、大阪地裁は切り捨て処理した後に合算計算することとしている(端数期間暦年計算方式を裁判所が採用する理由である「電卓による計算の便宜」という観点からのものと思われる。)。今回作成した計算書の最新版であるokayamapatern20080219trailversionfordistributionにおいては、この端数期間についての切り捨て処理の時期を選択できるようにした。これも、1円の誤差の発生の問題である。 
 
13 今回試作したokayamapatern20080219trailversionfordistributionは、「借受日と弁済日ないし弁済日と弁済日との期間間隔が1年以上の場合には、正確な計算はしない」という計算条件がついている。
 本来、1年以上の場合をも射程に入れたものをつくるのがベストであることは理解しているが、年利計算である端数期間暦年計算方式の場合、この少しのことが、計算プログラム作成の上からは労力がかかる(BrainPower制作の端数期間暦年計算書J版は期間間隔が1年以上の場合にも計算するように年単位表示と日数単位表示を併存させているが、巷にみる端数期間暦年方式を採用する多くの計算プログラムが、年単位表示を省略し日数表示のみのものである理由でもある)。
 時間をみつけて、今後、改善する。
 
 
追記
 BrainPower制作の諸計算書を購入、使用しておられる方々から、一番要望が多かった「入力行の削除、挿入機能」をつけたF版シリーズのものに改善しました。
 ツータッチで、入力行の挿入、削除が可能です。
 okayamapatern20080219ftrailversionfordistribution
 
参考1
 従前方式である「裁判所用−端数期間暦年計算書・J版」で、上記岡山方式と同一の計算をしたい場合には、次のように入力する。
 例 2008年3月11日に追加借入した場合
 追加借り入れ日の前日の日、2008/3/10を入力する。  
 2008/3/10  
  前行の残元利金額を弁済金額欄に入力し、前同利率を入力する。
 次の行にも同日、2008/3/10を入力し  
  追加借入金額欄に、前行の弁済金額を入力し、利率を0入力する。
 次の行に追加借り入れ日、2008/3/11を入力して、所定の追加借り入れ金額及び利率欄に例えば18というように新利率を入力する。
  このように入力すれば、2008/3/11日から合算金額で元利金計算をしだす。
 
参考2
 「(新)返せ計算くん」の場合、上記のように、同一期日の連続入力はエラーとなるので、上記のような計算はできない。