タイトル
  Risk Looking !!
企業行動、従業員への危機管理
−−「法はリスクである・建設現場における危機管理などを素材として」−−
                          (原稿草案)
 
2004/1//25日執筆開始
             大阪弁護士会所属
弁護士    服 部 廣 志
 
 Risk Management 、、、??
    NO !!
     Look and Pick the cause for Risk !!
Risk Looking !!
 
 「リスクを管理する」という発想は不十分である。
 
 リスクはあらゆるところにある。「リスクを管理」することなど不可能である。リスクを「誘発する原因」に目を向け、その原因となり得るものの状態や状況の把握に努め、リスクを誘発する「原因の除去に努める」必要がある。
 
(注意−条文、判例は読みやすく加筆、訂正しています)
 
序文
 労働者災害の圧倒的多数は建設現場で起きている。また、建設現場における第三者ないし第三者所有物への侵害行為が多発している。安全な建物、安全な構築物建設の中に「最も危険な現場」がある。
 
 本書は、建設現場を管理する建設業者の立場から、建設現場において多発する多様な事故の法的類型を素材として建設現場における危機管理の思想システムを追求し、企業行動における危機管理を整理しようとしている。
 
 「最も法律に強い」と考えられている弁護士。その弁護士は、実際、「最も法律に弱い」とさえ言えるものである。法令の遵守が誰よりも要求される弁護士にとって、「法律は最大の驚異、リスク」なのである。弁護士以外の業種の方も、
 
   「法はリスクの一類型である
 
との視点で法律を捉えることにより、初めてコンブライアンス(法令遵守)の徹底を図ることができる。
 
 本書は、「法はリスクである」との視点から、建設現場における危機管理を素材として、危機管理の思想を追求しょうとするものである。
 
 従来、このようなリスクの管理について、「Risk Management」と呼称されてきた。
しかし、この発想がダメなのである。本書を読み終えられたときに、新しい言葉を身につけられていることでしょう!!
      Risk Looking !!
 
 リスク=危険性
 人間行動、企業行動における負の要素、マイナスの要素を、通常「リスク」と表現されてきた。
 従来は、このような負の要素は、偶発的要因により発生するものであるとして、正面から、この分析や把握をすることを避けがちであったものの、現在においては、人間行動、企業行動においても、これらの要因を偶発的要因と捉えるのではなく、企業行動等に内在する不可避なものであるとして、正面からこれを把握し、これの発生を可能な限り抑制、管理するのが常識となってきている。
 社会における各種保険制度の充実、企業会計における環境会計の採用等はこのような発想に基づくものとも言えるのみならず、ISO (International Organization for Standardizatio 国際標準化機構)の認定、認証を取得する企業行動もその一環と把握できるのかも知れない。
 
 また、個人情報保護法が制定され、企業における個人情報保護の施策が求められている。
個人情報保護の施策をしない企業は、法令違反となる場合があり、、社会から駆逐されることとなるだろう。
 プライバシーマークの取得制度は、その施策の一例かもしれない。
    http://privacymark.jp/
 
 リスクと正面から向き合わない企業行動は、そのこと自体を理由として、経済社会から放逐される運命にある。
 
第一編 企業行動における危機管理
 
第一章 建設現場における危機管理
 
一 従業員の偶発的体調要因と事故
 
1 建設現場において作業に従事する人間の精神的、また肉体的体調は、常に万全とは限らない。むしろ、常になんらかの体調不調の要素を保有していると考えて差し支えない。
 事故は、このような従業員の体調不良が誘因となる場合がある。
 
2 最も頻発する可能性のある体調不良を誘因とする労災事故の類型である−「腰椎症」−を素材として考えてみる。
 
 このような、誰にでも、どこででも発症する可能性のある腰椎症を取り上げることにより、危機管理の視点や発想の整理を試みる。本書は腰椎症を取り上げるものではない。建設現場における危機管理を取り上げるものではない。これらの素材の検討を介して、企業行動における危機管理の思想を追求するものである。
 
イ いわゆるギックリ腰と言われる症状は、整形外科の知見では、腰椎症、椎間板ヘルニア等他種類の病名が付されている。
 これらの腰椎症等は、多くの場合、加齢に伴う椎間板の老化を誘因とし、一時的ないし過度の外力が作用した場合に発症するようである。そして、発症の原因となる外力は、必ずしも、通常生じないような強い又は異常な外力のみを原因とするものではなく、軽微な外力においても、その軽微な外力を受ける際の事故者の姿勢その他の要因と競合して発生し得る。
 
ロ このように考えてみると、建設現場において、腰椎症の発症を防止するというようなことは、完全には不可能であることがわかってくる。
 
ハ 使用者が、従業員の労働時間以外の私的な時間、私生活の内容にまで干渉することは認められておらず、従業員の体調管理は完全には不可能である。
 また、作業中における軽微な外力の作用とそれに不適切な姿勢その他の競合を防止することなど、およそ不可能とさえ言える。
 
ニ しかしながら、
  事故者の加齢に伴う椎間板の老化と
  事故者の前日来の生活状態の不良と
  事故者の不注意により、事故者に、いわゆるギックリ腰が発生した場合、使用者は安全配慮義務違反の責を免れることは不可能と言ってよい。
 
3 法律が使用者に要求する従業員に対する安全配慮義務は、上記のように実際上、使用者が管理、干渉できない要因が競合して発生した場合にも及ぶのである。
 このような法律!! まさにリスク以外のなにものでもない。  
 
4 このような検討を前提に、リスクの回避に努めなければならない。
 
  「管理、干渉ができない世界への管理、干渉に努める」のである。
 
  これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の1」である。
 
 債務不履行=(民法415条)債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは債権者はその損害の賠償を請求することができる。債務者の責に帰すべき事由によって履行をできないこととなったときも同様である。
 
 安全配慮義務=(最高裁第三小法廷昭和59年4月10日判決)雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。
 
二 従業員自体が保有する危険への要因
 
1 「事故者の加齢に伴う椎間板の老化など」が誘因となって事故が発生し、その場合においても、安全配慮義務違反の責任を問われる、ということを意識する必要がある。
 
2 従業員には、年齢、男女差、知的能力、肉体的能力、肉体的疾患歴その他の差違がある。これらの従業員固有の多様な保有条件が事故発生の誘因となっても責任を負う、ということは、従業員の持つ、これらの多様な保有条件の把握と管理を要求されるということを意味する。
 
3 使用者は、同一対価である賃金を支払っていることを理由に、従業員に対し、同一条件での労働を要求できないことを意味するのである。画一的環境による就労を要求することにより、その従業員が保有する前記のような多様な条件、差違が誘因となって事故が発生した場合、当該従業員に対する労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務に違反したという法的評価を受け得るのである。
 「従業員の生命、身体を保護すべきである」という使用者に課せられた安全配慮義務の履行との関係においては、
 
   「法の下の平等」という命題は通用しない
                     ことを理解する必要がある。
 
 これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の2」である。
 
三 従業員の乱れた日常生活態度が持つ危険への要因
 
1 昨日までは、なんらの問題もなく作業に従事してきたから、今日も大丈夫であろう。
この発想は、Risk Looking の観点から言えばダメなのです。
 
2 「昨日まで、問題がなかったから、今日も大丈夫である」などという発想が、どうして生まれるのでしょうか。このような発想は、多くの人が抱く発想かもしれません。しかし、多くの人と同じようなこのような発想で対処することは、リスクが現実のものになることを誘発するのです。
 
3 あなたは、昨日の仕事が終わるまでの当該従業員を知っていたとしても、今日の当該従業員を知らないはずです。ひょっとしたら、昨日、仕事が終わってから、今日の始業時まで、当該従業員は、夜のディスコで踊り狂っていたのかもしれません。
 
   今日の彼は、昨日の彼ではない!!
 
 これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の3」である。
 
四 従業員の蓄積疲労が持つ危険への要因
 
1 今日、なんらの問題もなく作業に従事して帰宅したから、今日も大丈夫であろう。
この発想は、Risk Looking の観点から言えばダメなのです。
 
2 人間の疲労は蓄積し、それが過労死その他の事故にもつながるのです。
  「目先のリスクの存否」のみを考える発想や「リスクを管理する」という発想ではダメなのです。リスクを「誘発する原因」に目を向け、その原因となり得るものの状態や状況の把握に努め、リスクを誘発する「原因の除去に努める」必要があるのです。
 
   今日の無事は、本当か!!
 
 これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の4」である。
 
五 従業員退職後の危険への要因
 
1 従業員が退職した場合、通常、使用者は当該従業員を起因するリスクは消失したと考えることが多い。
  この発想は、Risk Looking の観点から言えばダメなのです。
 
2 仮に、当該従業員が、就労中に腰椎症を発症していたとして、またその腰椎症が緩解していたとして、それが退職後に憎悪する場合があるのです。退職後の憎悪、発症であったとしても、就労中の業務が起因していたと認定される場合もあるのです。
 
3 従業員の退職時の状態の管理、把握をしておかなければならないのです。
また退職後に発症、憎悪する可能性があり得るのなら、退職時と退職後の当該従業員の新就労状況への関与を忘れてはならないのです。
 
  人は去っても、リスクは残る!!
 
 これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の5」である。
 
六 緊張と弛緩の狭間の危険への要因
 
1 事故は、いつ起きるのか。
必ずしも弛緩の継続時でもなく、緊張の過度の継続時でもない。緊張と弛緩と、その絶妙のバランス喪失時に起きるのかもしれない。
 
2 この事故発生を防止する絶妙のバランスは、知識と経験と感と、そして補助により可能となる。
 
3 事故は本人のみで防げるものではない。
 
  全員が助け合って、事故を防ぐ!! その心!!
 
 これこそが、建設現場における事故発生というリスクを回避する「極意の6」である。
 
第二章 出退勤における危機管理
 
一 通常の出退勤における危機への要因
 
1 公共交通機関を利用した出勤退勤時における事故の発生は、企業で防止できるものではないかもしれない。
 
2 しかし、従業員が企業所有車両、マイカー、そしてマイバイク等を利用して出勤退勤する場合における事故は、防止しなければならない。その事故は、企業存続の危機を招くものである。
 
3 出退勤も仕事の一部!!
 
 これこそが、企業行動における危機管理の「留意事項の7」である。
 
二 特別の出退勤における危機への要因
 
1 通常の出勤ではなく、現場への直行、取引先への直行、出勤の形態にもいろいろある。
 
2 このような特別の指示ないし就労形態における出勤時の事故。それは出勤という名の就労状態である。
 
3 特別な指示の存在、それは従業員を支配下においたものと言える。
 
  特別指示は支配である!!
 
 これこそが、企業行動における危機管理の「留意事項の8」である。
 
第三章 建築士(設計・監理契約など)との関係における危機管理
 
一 建設業者自らが、企業内部に建築士などを従業員として持っていない場合には、外部の建築士らに建築物の設計などを依頼することとな。
 
1 設計には、建築物の構想プランとも称すべき「構想」、その構想を具体化した「基本設計」、そして実際に大工、工務店らが建設工事を行うための「実施設計」とに大別される。
 
2 この構想ないし基本設計段階において、小規模建設業者の場合、契約書の作成や締結ないしは設計料の合意がなされないことが多く、「なぁなぁ」で、ことが進行して設計料などをめぐるトラブルが発生する。「なぁなぁ」は、お互いに勝ってな期待と希望を抱かせるもの。その期待が裏切られ、その程度が許容範囲を超えると紛争が勃発する。
 
  なぁなぁは、トラブルを誘発する!!
 
 これこそが、企業行動における危機管理の「留意事項の9」である。
 
第四章 会社内部規律における危機管理
 
 公認会計士丸山満彦氏のBlogに参考になる記載があった。
 http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2005/01/post_15.html#more
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 個人情報保護法だけでなく、企業は幅広い法律を網羅的に遵守しないといけませんね。法令違反をして、法的、社会的な制裁を受ける企業が少なからずありますね。個人的な思いつきによる簡単なチェックリストを作ってみました・・・。
 
1:社内は外部との交流が少なく、従業員は全て上をみて行動している。
 
2:社内はそれぞれが蛸壺化していて、横連携が弱い
 
3:職務権限や分掌があいまいで、社内ルールも文書化されていない
 
4:社長や事業部長の鶴の一声で今までの話がすぐにひっくりかえる。
 
5:社長や事業部長が部長などを超えて直接現場に指示を出す。
 
6:社長や事業部長は、売上に対して強い執着がある。
 
 たくさんYESがあれば、問題ですね。
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 経営者の資質を見ることが重要
 
1 経営者は誠実ですか?
 
2 経営者は改革に本気で取り組もうとしていますか?
 
3 過去の問題についても目をつむろうとしていませんか?
 
4 昔お世話になった人をかばうことなく、社会正義を貫く人ですか?
 
5 社内の良いことも、悪いこともちゃんと説明する人ですか?
 
 会社が変わっていくのには経験則(理論的な根拠はないのですが・・・)からいうと3年はかかりますね。昔から石の上にも3年といいますが、そんな感じです。
 http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2005/01/nhk_coso.html#more
 
 各種の企業のコンプライアンス等の建て直しをしておられる公認会計士丸山満彦氏の現場、実践の場における教訓であり、参考になる。 
 
 
 
 
凡例
標準約款−−公共工事標準請負契約約款
連合約款−−民間(旧四会)連合約款
労基法 −−労働基準法
労災法 −−労働者災害補償保険法
労安法 −−労働安全衛生法
下請法 −−下請代金支払遅延等防止法