金利計算理論と実務の誤謬−その5
    追加借入当日の利息金計算と継続的貸付取引の評価
                                 2006/7/2
 
             大阪弁護士会所属
                 弁護士 五右衛門   
 
 「追加借入当日の追加借入金についての利息金加算の当否」について、判例タイムズNO1208号に計算された「過払金返還請求訴訟をめぐる諸問題(上)」(4頁以下)に明らかな誤解ないし誤った記載がなされている。
 
 某地裁民事部所属裁判官4名の執筆にかかるものであるが、「追加借入当日の追加借入金についての利息金加算の当否」に関し、「貸金業者・借主間の継続的取引を・・一体の貸付と取引とみる場合には・・当初の貸付日当日の利息金は算入されるが、最終取引日までの間は、各日の残高を基準に利息計算を行うべきであり、追加貸付があった場合でも、当該貸付日に、前回までの貸付分の利息と、新規貸付分の利息が二重に計上されることはないということになる」旨の記載がある。
 
 その論旨は「貸金業者・借主間の継続的取引を・・一体の貸付と取引とみる場合には、追加借入当日の追加借入金についての利息金加算をしない。
 なぜなら、一体の取引とみる場合には、前日の債務残高により利息金計算をするからである」というもののようである。
 
 利息金計算の根本を見誤った、明らかな誤解ないし誤った記載である。
 
 利息金計算をする場合、「前日の債務残高により利息金計算をする」のは、通常、「前日の債務残高がそのまま持ち越される、即ち、前日の債務残高金額と同額の債務元本金額が翌日である当日の一瞬の時間、残債務残高になる」からなのである。
 当日の一瞬、前日の債務残高金額相当の残債務金額が残っておれば、大審院明治38年12月19日判決の日割りにより利息金計算をするという利息金計算の理論に基づき、1日分の利息金を加算計算することとなるからである。 
  
  「前日の債務残高により利息金計算をする」のは、「前日の残債務残高に意味がある」のではなく、当日にその金額が持ち越されるからなのである。「前日の残債務残高に意味がある」のではなく、「当日の、一瞬の、残債務残高に意味がある」からなのである。
 
 従って、また、「追加借入金についての追加借入当日の利息金加算の当否」という問題は、追加借入がなされた場合において、「当初の貸付金と一体としての取引と見るか否か」という問題とは別の問題なのであり、上記判例タイムズ掲載論考は、これを混同する誤りを犯してしまっている。
 「追加借入金についての追加借入当日の利息金加算の当否という問題」は、「追加借入がなされた場合において、当初の貸付金と一体としての取引と見るか否か」という問題とは別個の問題であり、それは単純に、「追加貸付により債務元本が増加した当日の利息金をどのようにして計算するのか」という消費貸借契約理論及び当事者間の合意の有無に関する問題なのである。
 
 「貸金業者・借主間の継続的取引を・・一体の貸付と取引」とみようが、みまいが、追加貸付当日の債務元本金額が増加している事実は否定できないものである。「当初の貸付金と一体としての取引と見る」という法的評価により、追加貸付という事実ないし債務残高が増加したという事実が消失することはあり得ないのである。
 「当初の貸付金と一体としての取引と見る」という法的評価は弁済充当計算、過払い金計算その他に関連することはあっても、追加貸付当日の債務残高増大の事実を否定することにはならないのである。
 
 利息金計算において、それ自体、独立した意味のない「前日の債務残高」について、これが意味あるものと誤解したことによる誤謬である。