医療関係民事、刑事判例・ノート
 
                  大阪弁護士会所属
                       弁護士 五 右 衛 門
 
目次
・ 医療方法選択・自己決定権侵害−慰謝料(民事)
・ 期待権侵害−慰謝料(民事)
 
掲載予定
・ 死亡との因果関係立証困難な場合、業務上過失傷害での立件−因果関係(刑事)
岡山地裁昭和55年5月30日判決
・ Sudden infant death syndrome 乳幼児急死症候群−注意義務(刑事)
東京地裁昭和54年1月12日判決
・ 信頼の原則−注意義務(刑事)
札幌高裁昭和51年3月18日判決
・ 静脈注射と診療補助業務−行政解釈−(刑事)
 
 
医療方法選択・自己決定権侵害−慰謝料(民事)
 
・ 医療方法選択の権限
最高裁平成12年2月29日第三小法廷判決
−−医師が
−−患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し
−−輸血を伴わないで肝臓の腫瘍を摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており
−−右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しない
−−右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては
−−右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたこと
−−によって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
・ 当面の留意事項
−−医師の治療方法選択についての裁量権限も、患者の自己決定権限の枠内か。
−−上記判示からすれば、射程距離は、患者の「明示された、強い(固い)、意思」に反する場合に限定されるか。
 
期待権侵害−慰謝料(民事)
 
・ 医療水準に達しない医療行為
最高裁平成12年9月22日第二小法廷判決・民集54/7/2574
−−疾病のため死亡した患者の医療行為にあたった医師の医療行為が、過失により
−−当時の医療水準にかなったものでなかった場合において
−−右医療行為と患者の死亡との間の因果関係は証明されないけれども
−−医療水準にかなった医療がおこなわれていたならば
−−患者が死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される
 ときは
−−医師は患者に対し・・・不法行為による損害賠償責任を負う。
  
・ 今後の課題
−−慰謝料金額の算定基準・・不明・・今後の課題
−−慰謝料以外の損害賠償責任についても・・不明・・今後の課題
−−患者が死亡せず、重大な障害受けた場合・・不明・・今後の課題
・ 関連問題
−−医師以外の、委任型役務提供専門職への適用の肯否
−−弁護士の不当訴訟活動についての慰謝料支払い義務肯定判例
−−−−平成4年4月28日東京地裁判決・判例時報1469/106
・ 当面の留意事項
−−医師は、診察治療にあたり、その当時の医学水準に適した診察、医療が求められるか。
−−となると、少なくとも、その担当する診療科目についての医学会の動向や医学会の診察治療水準を自ら維持、保持しておく必要があるか。
−−となると、担当する診療科目について、学会や医師会に所属して、各種の情報を取得し得る体勢や環境に自らをおいて置く必要があるか。
−−自らが医学水準に適する知識、知見を保持していないというおそれがある場合には、速やかに、医学水準を保持する医療機関への転院指導ないし必要な措置をとる必要があるか=このような意味での転院措置義務もあるか。