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「ボクシング理論・試論」 (「対抗言論の理論」補強修正試論)

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適当な例示は難しいものの、例えば「市街化調整区域内に存在し、調整区域としての開発制限を受けている土地」を「市街化区域内に存在する土地」と騙して売却するという違法行為を考えてみる。

民事法上、不法行為が成立することは疑いなく、また刑事法上詐欺の罪に該当しうるものである。

この土地について、騙され購入した人が、購入目的に従って、予定していた時期に自宅の建設に着手した時点において、市街化調整区域の線引きが改訂され、当該土地が「市街化区域内」に編入されていたとしたら、どうなるのか。

民事法上は、売買契約締結の時点で、民法709条の不法行為は成立しており、その当時であれば損害賠償請求は認められることとなる。しかしながら、「市街化区域に編入」された後に騙されたことに気づき損害賠償請求をしたとして、どうなるのか。一旦成立した不法行為ではあるものの、損害が現存していないということで、損害賠償請求は否定されるかもしれない。この場合、不法行為の成立や存在が否定されるものではない。あくまでも、損害が現存していないということで、損害賠償請求が否定されるに過ぎないものである。

また、刑法所定の詐欺の罪は、免れないものと考えられる。もちろん、検察官が不起訴にするかもしれないものの。

このように、「法益侵害の回復ないし不存在」ということのみによっては、問題とされる行為の違法性は否定できないもののように思われる。

高橋教授の論理の補強は困難である。

ロ その二つは、例えば、刑法所定の偽証の罪等の「行為論」である。

刑法上、宣誓した証人が虚偽の陳述をすれば、刑法169条により偽証の罪となる。

しかしながら、1回の尋問陳述全体をみたうえ、「記憶に反する虚偽陳述をしたか否か」で考えるという立場にたてば、1回の尋問陳述の当初に虚偽陳述をしたとしても、その尋問終了までに虚偽陳述を訂正すれば、偽証の罪自体成立しないという考え方もある。

この考え方の場合には、「1回の尋問陳述という場」を基準として、虚偽陳述の有無を考えようという立場である。

「場の論理」という意味では、高橋教授の論理と共通点がある。「行為」を「一定の時間の経過ないし場」というものを基準として、捉える考え方である。

このような考え方は、刑事法の世界では認められうる論理、行為論であり、高橋教授の「対抗言論の理論」による「名誉は侵害されても、対抗言論により回復しうるので、結果として名誉毀損は生じないと考える」という発想を、既存の法理論ないし行為論の中に取り込もうとすれば、「フォーラム等における発言は、ひとつの機会という場における当該フォーラム終了までの全体」で考察するというような「行為理論」で補強する必要がある。

ただ、仮に、このような補強理論が支持を受けたとしても、同一議題を扱うフォーラムであっても「日をかえた続行期日までには及ばない」との限定をつけることは必要であろうと思われる。

このように補強をしたとして、「対抗言論による反論」を要求する「ひとつの機会というフォーラムの場」というもの自体が、現実に想定できるのかという問題がある。「某国の陪審員のように、議論の決着がつくまで、半監禁状態にする」というのなら、格別、まさに「対抗言論による反論を要求する、ひとつの機会というフォーラムの場」というものの存在自体、仮想の世界の議論といわれても止むを得ないものと思われる。ハソコン通信やインターネットML等の「場」というものは、「時間の経過とともに、参加者はめまぐるしく変わるものである」し「現実にも、変わるものである」との前提で立論しなければならないものと考えられる。

このような前提に立つ限り、前記のような「行為論」による「対抗言論の理論」の補強をしたとしても、「対抗言論による反論を要求する、ひとつの機会というフォーラムの場」という仮想空間を前提とせざるを得ない高橋教授の「対抗言論の理論」の既存の法理論への取り込みには障碍があると言わざるを得ない。

7 このような議論、問題意識からすれば、高橋教授の提唱する「対抗言論の理論」は、その志向するところは是としたとしても、既存の法理論との整合性等の観点から、これを無条件に採用することは困難である。

8 以上のような問題意識から、既存の法理論と整合しうる「対抗言論の理論」に代わる、ないしこれを補強する理論を構築できないものかというような試行錯誤の検討中理論を「ボクシング理論・試論」と称して公表するものである。

「対抗言論の理論」という言論理論をそのまま、違法性の理論に直接取り込もうとすることを断念し、「インターネットやパソコン通信の場における議論」は不特定多数の面前で互いに相手を攻撃し合う「ボクシング」に類似した面があることから、「ボクシングに関する違法性の理論」を参考にしながら、「対抗言論の理論」の趣旨とせんとする点を反映、取り込んだ違法性の理論を探そうとしているものである。

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